英語習得の臨界期仮説をグラフで解説~批判と真実も紹介~

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  • 小さい頃に英語を始めれば、英語力伸ばせる
  • 大人から始めたのでは英語習得は手遅れ

    こんな話を聞いたことがある人もいるかと思います。

    ある年齢までに学習を開始しないと英語力が身につかないとする「臨界期仮説」の真実をお伝えします。

     

    結論を先に言ってしまうと次の通りです。

     

    この記事の結論
    • 英語圏に住む場合は、早く英語学習を開始した方が、高い英語力を身につけやすい。
    • 日本に住む場合は、あまり気にしなくてよい。

     

     

      言語習得の臨界期仮説とは?

       

       

       

      ある年齢までに英語学習を始めないとネイティブレベルにならない?

      言語習得の「臨界期仮説」とは、ある年齢までに学習を開始しないと、ネイティブ並みの言語能力は身につかないという考え方です。

      若い方が言語を習得しやすいのは、誰しもイメージしやすいかと思います。

       

      母語習得に関しては、赤ちゃんは1歳くらいから最初の言葉を話し始めます。

      2~3歳になると2語文、3語文を話し始め、4歳くらいになると簡単な会話ができるようになる。

       

      第二言語についても同様です。

      海外赴任した親についていく子供が、数年でコミュニケーションできるレベルまで言語を習得する例はよく知られています。

       

      このように子供は言語を身につける能力が高いです。

      「若い方が言語を習得しやすい→若い頃から学習を始めないと、言語は身につかない」というロジックが、臨界期仮説を支えています。

       

      臨界期仮説は研究者でも見解が統一されていない

      このように臨界期仮説は、私たちの直感にあっています。ただし、いまだに研究者の間で臨界期仮説に対する統一的な見解は出ていませんつまり、確固とした証拠はなく仮説の域を出ていません。

       

      なぜなら、言語習得に影響する要因が多岐にわたるため、年齢要因のみを切り分けるのが簡単ではないからです。たとえば、普段の生活の環境(英語圏か日本語圏か)、受けた教育の内容など。

       

      さらに、「言語習得」の中でも年齢要因を受けやすいもの、受けにくいものがあることがわかっています。たとえば、発音は若い時に学習を始めた方が習得しやすい一方、文法や語彙は学習開始年齢の影響を受けづらいです。

      このような状況ですので、「臨界期仮説」をうのみにするのではなく、細分化して理解する必要があります。

       

      ひな鳥の「すり込み」のアナロジー

      もともと臨界期(Critical period)は、「生物が生きていく力を身につける大切な時期」を指します。

       

      たとえば、ひな鳥の「すり込み(imprinting)」が有名です。行動生物学者コンラード・ローレンツが「ソロモンの指輪」で発表し有名になった理論です。

      ひな鳥は卵からかえると、自分より大きくて動くものを母鳥とみなしついていきます。この「すり込み」は生まれてから数10時間が重要で、この期間が臨界期です。

       

      同様に人間の言語習得にも臨界期があり、ある年齢までに言語を学ばないと身につかないとするのが臨界期仮説です。

      ひな鳥には明確な臨界期がありますが、アナロジーで人間の言語習得に当てはめてよいか、には疑問が残ります。

       

      臨界期仮説の根拠

       

       

       

       

      アメリカ移民の大規模調査

      臨界期仮説をサポートするデータはいくつかあります。

      大規模な調査の例としてFLEGE(フレーゲ)の研究があります。フレーゲは韓国からアメリカに移住した、移民の子供の英語力を調査しました。2~23歳に移住した人たち240人の調査結果です。

       

      この移民たちは15年以上アメリカに住んでいるので、日常生活には問題ないレベルの英語力を持っています。

      ですが調査の結果、アメリカに移住した年齢により英語力に差があることがわかりました。

      調査したのは、「発音」「文法能力」です。アメリカ人のネイティブスピーカーが発音や文法能力を1~9点で採点をしました。

       

      発音はアメリカへの移住年齢の影響を受ける

      下のグラフの横軸はアメリカへ移住した年齢、縦軸は発音の点数です。

      ●印は韓国人の移民の結果、〇印はアメリカ人のネイティブスピーカー。

       

      このグラフを見ると、アメリカに移住した年齢が若いほど、発音の点数がよいことがわかります。

      反対にアメリカに移住する年齢が上がるほど、発音の点数が悪くなります。

       

      データに大きなバラツキがありますが、5歳くらいに境目があるように見えます。

       

      文法能力は年齢の影響が少ない

      下のグラフの横軸はアメリカに移住した年齢、縦軸は文法能力です。

      こちらの結果を見ると、移住年齢が若い方がわずかに文法能力が高いように見えますが、バラツキが大きすぎて判断できないとの結果です。

       

      つまりフレーゲの研究から、「発音」は学習開始年齢の影響を受けやすいが、「文法能力」は年齢の影響を受けづらいことがわかります。

      参考:Age Constraints on Second-Language Acquisition (Flege et.al., 1999)

      言語習得の臨界期仮説の真実~日本人には関係ない?~

      先ほどのフレーゲの実験は、韓国からアメリカに移住した人を対象にしました。つまり英語漬けの環境で、英語を「第二言語」として学ぶ状況です。このような環境をESL(English as a Second Language)と呼びます。

       

      一方、日本人が日本で英語を「外国語」として学ぶ環境をEFL(English as a Foreign Language)と呼びます。

      EFL環境においても、言語習得に対する学習開始年齢の影響はあるのでしょうか?

       

      実は日本のようなEFL環境では、外国語学習を開始する年齢の影響は大きくないとする研究結果が出ています。

       

       

       

      バルセロナ年齢要因プロジェクト

      スペインで行われた「バルセロナ年齢要因プロジェクト」とは、EFL環境に住むスペイン語を話す子供たちの英語力を調査したプロジェクトです。

      このプロジェクトでは、学習開始年齢が8歳、11歳、14歳、18歳の子供の英語能力を調査しました。リスニングやスピーキングなど様々な英語スキルについて調査されています。

       

      学習開始年齢のみの影響を比べるため、トータルの学習時間をそろえてテストを実施しました。具体的には、学習開始から200時間、416時間、700時間で英語能力を比べました。

       

      その結果、多くの側面で学習開始年齢が遅い子供の方が、早く英語学習を開始した子供を上回っていました

       

      一般に早期学習が効果的とされる、音の理解や発声についても学習開始年齢が遅い子供がよい結果を出しました。

      参考:On how age affects foreign language learning (Munoz, 2010)

       

      大量の英語学習をしないと早期教育は意味がない

      このプロジェクトの結果からわかることは、日本のように英語圏ではない環境では、早く英語学習を始めてもあまり意味がないということです。

       

      これまでの、英語早期教育に関する研究結果をイメージ図にまとめると次のようになります。

       

       

       

      左の図は、英語圏で生活する人など、大量に英語をインプットする環境の場合です。この場合は、若い年齢で学習を開始した方が到達する英語力は高くなります。

       

      一方、右の図は日本など英語を大量にインプットしない環境の場合です。このときは、早期教育で英語を学んでも、割とすぐに追いつかれてしまいます。

       

      英語に触れる時間が影響

      これらの違いは何か? とういと、英語に触れる時間の違いです。

       

      日本人大学生を調査した研究では、早期に英語学習をしたメリットを得るには1500~2000時間の英語学習が必要と言われています。

      バルセロナ年齢要因プロジェクトでは726時間しか学習していなかったので、勉強時間が少なすぎた可能性があります。

       

      参考:What does more time buy you? Another look at the effects of long-term residence on production accuracy of English /inverted r/ and /l/ by Japanese speakers(Larson-Hall. J, 2006)

       

      ちなみに日本の中学、高校の学習時間を合わせても790時間程度ですので、早期教育のメリットを得るには学習時間が足りません。中学、高校で英語を習う時間の2倍程度は英語学習に費やす必要があります。

       

      臨界期仮説をどのように捉えればよいか?

      まだ研究者間でも見解が統一されていない臨界期仮説ですが、どのように捉えればよいのでしょうか?

       

      1. 日本に住む英語学習者は、臨界期を気にする必要がない
      2. そもそもネイティブレベルを目指す必要がない

       

       

       

      日本に住む英語学習者は臨界期を気にする必要がない

      まず、日本に住む英語学習者は、あまり臨界期を気にする必要がありません。

      なぜなら、英語圏に移住するのでなければ、幼少期に英語を学んだか否かで、英語レベルに差がつきづらいからです。

       

      つまり、幼稚園や小学校で少し英語を学んでも、中学、高校と勉強を続けるうちに、英語力の差がなくなってくるからです。

      ですので、「大人になってからの英語力を上げるため」には、無理をして子供に英語を習わせる必要はないということです。

       

      そもそもネイティブレベルを目指す必要がない

      英語を仕事などのコミュニケーションツールと捉えると、そもそもネイティブレベルの英語力を目指す必要はありませんなぜなら、世界中の英語スピーカーのうちネイティブは僅か25%程度だからです。言い換えると、100人に75人はノンネイティブの英語スピーカーです。

       

      つまり、世界ではノンネイティブの英語が主流ということです。ですので、ネイティブレベルの英語力がなくても、仕事で結果を出すことができます。

       

      具体的には「グロービッシュ」と呼ばれる、簡単な英語を使って外国人とコミュニケーションを取れれば、仕事で成果を出せます。

      グロービッシュを簡単に表すと「中学校レベルの単語や文法を使ったシンプルな英語」です。詳細は以下の記事に書いたので、気になる方はチェックしてみてください。

       

      まとめ

      この記事では、英語学習開始年齢と英語力の関係について解説してきました。

      「ある年齢までに英語学習を開始しないと、英語が身につかない」とする臨界期仮説が提唱されていますが、これまでの研究結果によると日本人はあまり気にする必要はなさそうです。

       

      仕事など実践で成果を出す英語力は、大人になってからでも身につけることができます。無理にネイティブレベルを目指したり、学習開始年齢にこだわったいるするより、「ツールとしての英語力」を身につけることにフォーカスすることをおすすめします。

       

      参考文献

      Flege et.al., 1999, Age Constraints on Second-Language Acquisition

      Munoz, 2010, On how age affects foreign language learning

      Larson-Hall. J, 2006, What does more time buy you? Another look at the effects of long-term residence on production accuracy of English /inverted r/ and /l/ by Japanese speakers

      はじめての第二言語習得論講義: 英語学習への複眼的アプローチ

      第二言語習得と英語科教育法

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