- 日本では仕事ができると評判の人が海外赴任したが、現地の従業員からの評判が悪い
- 外国人の部下や上司への接し方がわからず迷ってしまう
- さまざまな国の人と仕事をしているが、考え方が違いすぎてギクシャクしてしまう
- 英語はある程度話せるのに、相手に言っている内容が伝わらない。相手が怒り出してしまうこともある
このようなケースは「異文化理解」に原因があるかもしれません。
グローバルにビジネスをする機会が増えているため、「異文化理解力」はIQ(知能指数)、EQ(こころの知能指数)に続く第三の知能指数として注目を集めています。
私がビジネス英語コーチとしてサポートをする中、「英語力」ではなく「異文化理解力」が足りないせいで、コミュニケーションに失敗したり、ビジネスでトラブルに陥ったりするケースが多いことに気づきました。
このような経験があるため、この記事を書いています。
この記事では以下について説明します。
- グローバルで活躍するのに不可欠な「異文化理解力」
- 「異文化理解」の機会は身近にある
- 異文化理解ができず、トラブルになる事例
- 異文化理解力を身に着けるため、文化の違いを知りメタ認知力を鍛える
タップできる目次
私の異文化理解体験〜身近な例〜
私が初めて異文化体験をしたのは、海外ではなく国内です。
高校時代まで関東圏で育ちましたが、大学に入り初めて関西に住みました。
関西に出て感じた違和感
入学後しばらくしてクラスメートに友人ができました。関西の大学だったため、関西出身の人が大多数。
ときには友人の家に行き遊ぶようにもなりました。
最初は気づかなかったのですが、友人と関わるうちに違和感を覚えることがありました。
それは私が何か話をすると、友人たちから必ず「で、オチは?」と聞かれたからです。
私としては普通に雑談をしていただけなので、特に話にオチなどありませんでした。
何かの冗談かなと思っていたのですが、相手は真顔。
それも一度や二度ではありません。
聞かれるたびに、何とも言えない空気になり、きまりの悪さを感じていました。
また、毎回無茶な要求をする友人に対しイライラを覚えることも。
このような経験が何度かあったのち、私は友人に聞いてみました。「なぜ、毎回話にオチを求めるのか」と。
友人に言われた衝撃の一言
友人に言われた一言は今でも忘れられません。
「え? 話にオチつけるのは当たり前やろ。オチなかったら、何のために話しとんねん。」
この友人にとっては、たとえ雑談でも話にオチがあるのは当たり前のことだったようです。
そして、この友人だけでなく関西出身の友人の共通認識とも気づきました。
すなわち、私が違和感を覚えていたのは関西の関東の「文化」の違いが原因だったのです。
言語が同じでも文化が違うとコミュニケーションギャップが生まれる
関東圏と関西圏で方言は異なりますが、みな日本語を話しており、言語レベルで話が通じないことはありません。
しかし、前提となる価値観が異なる結果、コミュニケーションがうまくいかなくなります。
文化の違う地域に引っ越した方で、似たような体験をされた方もいるはずです。
日本語同士でもこのようなコミュニケーションギャップが生じるため、海外の場合はなおさらです。
たとえ英語がペラペラでもお互いの文化的背景を理解できていないと、大きなトラブルに発展することがあります。
以下では、異文化理解と異文化コミュニケーションの重要性について解説していきます。
異文化理解と異文化コミュニケーションの必要性
グローバルに仕事をする機会が増える
日本企業に勤めていても、今後グローバルに仕事をする機会は増えていきます。つまり様々な文化を持つ国の人と仕事をすることになります。
なぜなら、日本企業の海外進出が進んでいるからです。
たとえば、国内製造企業(メーカー)の海外売上高比率は39.3%(2018年、国際協力銀行しらべ)。この数値は過去10年にわたり増え続けています。
実際、私は国内のメーカーに勤務しています。入社後数年は国内企業を相手にした仕事ばかりでしたが、ある時から急に海外企業と仕事をする機会が増えました。アメリカ、ドイツ、韓国、中国、台湾、インドの企業などです。
グローバルに仕事をすると、日本と異なる文化を持つ国の人々とコミュニケーションをとり、ビジネスを進めることが求められるようになります。
そのため、異文化理解や異文化コミュニケーションが必要になるのです。
文化が違うと価値観が違う
国が違えば文化も異なります。そして文化が違うと価値観も違います。
なぜなら、文化とはその国や組織の人が持っている価値観の総和であるからです。
文化による空気の読み方の違い
具体例をあげましょう。
たとえば、アメリカには物事をはっきりと言葉にする文化があります。
いわゆる「ローコンテクスト」な文化です。
ローコンテクストとは、文脈や場の空気に頼らず伝えたいことを言語化するコミュニケーションの方法です。
一方、日本は「ハイコンテクスト」な文化です。
ハイコンテクストとは、言いたいことをはっきり言わず、場の空気を読むのを前提としたコミュニケーション方法です。
このような文化の違いにより、コミュニケーションがうまくいかないケースがあります。
なぜなら、コミュニケーションの前提となる価値観に大きな差があるからです。
アメリカ人との会議での失敗体験
たとえば、日本人は会議で言いたいことがあったとしても、明言しない傾向があります。場の空気を壊すのはよくないと感じるからです。発言を控えた人に対し、「場の空気を読める人」とポジティブな印象を持つこともあります。
一方、アメリカ人は会議で発言しない人は存在価値がないと考えます。なぜなら、コミュニケーションは言葉にしないと始まらないと考えているからです。
そのため、日本人が相手に気を遣って会議で発言を控えていると、アメリカ人には意見を持たない役に立たない人と見えてしまいます。
実際、アメリカ人とビジネスをした際、文化の違いを意識せずにコミュニケーションをして失敗した経験があります。
会議で、相手からある提案を受けました。私は内心「この提案はいまいちだな」と思っていましたが、批判するのはよくないと思い発言を控えていました。
しかし、会議の後半になり相手から「これはあなたの専門分野の話ではないか。それにも関わらず何の考えもないのか」と言われました。
アメリカ人は黙っている私を見て、何も考えていない、何の意見も持っていないと解釈したようでした。
何の意見も持っていない人は存在価値がないと思われてしまうため、危うく相手の信頼を損ねてしまうところでした。
このように、文化が異なる国の人は違う価値観を持っています。そして、価値観が違うことを前提にコミュニケーションをしないと、認識のズレが生じてしまうのです。
価値観を理解しないと、英語ペラペラでも会話が成立しない
価値観に合わせたコミュニケーションをしないと、たとえ英語がペラペラでも会話が成り立ちません。
なぜなら、価値観が違うと会話する際の前提がすり合わないからです。
たとえば、私が関西に初めて住んだ時に感じたカルチャーギャップは「雑談」に対する前提がかみ合っていないことが原因でした。方言の違いはあっても、お互い言葉は通じますし日本語なのでペラペラ話すことができます。
しかし、それでも前提がかみ合わないとコミュニケーションギャップが生じてしまうのです。
同様に外国人との間でも、お互いの価値観に合わせたコミュニケーションができないと、たとえ英語がペラペラでも会話が成り立ちません。
異文化理解、異文化コミュニケーションに役立つ6つの指標
文化を表現する様々な指標が提案されていますが、最も有名なのはオランダの学者ヘールト・ホフステードが提唱した文化の6次元モデルです。
1960~70年代に、11万6千人のIBM社員を対象に72か国20言語で調査が行われ、国別の特徴を指標化しています。
やや古い研究ですが、現在でも有効です。
実際、私が受講したMBAの「異文化コミュニケーション」のクラスでもヘールト・ホフステードの調査結果が紹介されていました。
ヘールト・ホフステード博士は以下6つの指標で国の文化を評価しています。
以下で指標の詳細と、日本の位置づけを紹介していきます。
上下関係の強さ(権力格差)
一つ目の指標は権力格差です。
権力格差とは、
国の制度や組織において、権力の弱い人が不平等な状態をどれだけ受け入れるか?
を表します。
権力格差の大きな国
たとえば、権力格差の大きな文化ではピラミッド型組織、中央集権型の組織が好まれます。
また、上司や年長者の言うことを聞き、敬意を表します。
代表的な国は、
- 東南アジア諸国
- 中国
- インド
- ロシア
- フランス
- 中南米諸国
などです。
一方で権力格差が小さい文化では、権限移譲が進んだフラットな組織が好まれます。
上司の役割は“コーチ”のような存在です。
代表的な国は、
- 北欧諸国
- イギリス
- アメリカ
- ドイツ
などです。
日本の権力格差は、ほぼ世界平均
権力格差のスコアが0~100点のうち、日本は54点。ほぼ中央値です。
この結果、意外に思いませんか?
私はホフステードの調査結果を見るまで、日本は権力格差が大きいと思い込んでいました。
なぜなら、アメリカなど欧米諸国と比べて日本は権力格差が大きいと言われることが多いからです。
しかし中国や東南アジア諸国と比べると権力格差は小さいのです。
文化は相対的なものなのです。
実際、義経や忠臣蔵が好まれる判官びいきの風潮は、権力格差がそれほど大きくないことを表しています。
個人主義傾向の強さと、集団主義傾向の強さ
個人主義/集団主義の軸もあります。
代表的なのはアメリカ、オーストラリア、イギリスなどアングロサクソン系の国です。
中国、東南アジア、中東、中南米の国が当てはまります。
日本は個人主義/集団主義の中間
日本のスコアは0~100点のうち46点、これもほぼ中間です。
私は「権力格差」と同様に「個人主義/集団主義」も世界標準に近いことに驚きました。
なぜなら、メディアの報道を見ると「日本人は集団を優先する」との印象を持つからです。
たとえば「忖度」文化が挙げられます。
上司の顔色をうかがい、組織の論理を優先する姿はまさに集団主義の典型に映ります。
しかし、文化は絶対的なものではなく相対的なものです。
アメリカやイギリスなどの国と比べれば日本は集団主義です。
一方、メンツを重んじる中国や、戒律に忠実な中東の国と比べると日本は個人主義傾向が強いことがわかると思います。
そして、「日本人は集団主義」とのステレタイプは、欧米人によって作られたものなのです。
個人主義、集団主義をあわせ持つ日本人
面白い考察があります。
日本人へのアンケート調査の結果、以下の仮説が立てられるとのこと。
“日本人は自分たちのことを集団主義傾向があると考えているが、
「自分だけは例外」と考える集団。
そして「個人主義的に行動したら、周りの人たちに嫌われるのではないか」
と皆が思い込んでいる。“
引用:経営戦略としての異文化適応力 (宮森千嘉子 著)
つまり日本人は個人主義的側面と集団主義的側面をあわせもっているのです。
一見すると集団主義的な行動をとっているようで、行動の裏側には個人主義的な思考があるのが日本人の習性のようです。
たとえば、戦国時代や明治維新時代に活躍したスターたちの物語が好まれるのも、この傾向を表しています。
とても納得感のある調査結果であり、ホフステードのスコアも納得できます。
「男性性(男らしさ)」の強さ
心理学や社会学の用語に男性性、女性性と呼ばれるものがあります。
これは、性別の男性、女性とはまったく別物です。
男性性が強い社会は成功する人が賞賛される
男性性が強い社会では、社会的に成功する人が賞賛されます。
目標を定め、邁進(まいしん)することが評価されます。「道を極める」こともほめたたえられます。
パワハラ、セクハラの問題が起きやすいのも男性性が強い社会の特徴です。
日本は世界でも突出して男性性が強く(95点/100点)、アメリカ(65点)、ドイツ(66点)など欧米を圧倒的に上回っています。
この調査結果は1960~70年代に行われたもので、日本が雇用機会均等法(1972年)を採用する前のものです。そのため現在よりも、より男性性が強い社会だったと想像します。
最近は「草食系」や「ワークライフバランス」がキーワードとなっているように、徐々に極度な男性性の文化は緩和されつつあります。
女性性が強い社会は弱者に寛容
一方、女性性が強い社会は弱者に対して寛容な文化です。
成功は努力だけでなく運も影響するため、成功に執着するより大切な人と過ごす、社会として弱者を救済すべきとの価値観が共有されています。
北欧諸国、タイ、韓国、ベトナムなどが代表例です。
国の文化の男性性、女性性により仕事に対するスタンスも変わってきます。仕事よりも家庭やプライベートを重視します。
そのため、男性性の強い日本人とギャップが生じてしまうことがあります。
タイ人スタッフから疎まれた理由
実際、私の知人がタイに駐在になったときのこと。
本社からの指示で重要なプロジェクトが動いていました。
知人は現地のタイ人スタッフに対し「こんなに大きなチャンスがあるのだから頑張ろう」と鼓舞しようとしました。
しかし、現地のタイ人スタッフは女性性が高い文化のためプライベートを重視します。
残業や休日出勤でプロジェクトを成功させることにより、家庭やプライベートが犠牲になることに嫌悪感を表し、知人は現地スタッフから疎まれてしまったとのことです。
このように、男性性/女性性にギャップがある国同士で仕事をすると、仕事とプライベートの重視のしかたが大きな問題となります。
不確実性回避の強さ
次の指標は不確実性回避の強さです。
- 不確実性を取り除くためにルール、規則を設けるのがよしとされる
- 失敗しないためにリスクを回避したり、正解を求めたりする
代表例は中東諸国、ロシア、ドイツ、韓国、台湾、日本などです。
- 規則はなるべく少ないことが好まれる
- 成功するためにリスクを取り、新しい手法が奨励される
代表例はデンマーク、中国、イギリス、アメリカなどです。
日本は不確実性の回避度が高い
日本は不確実性の回避度が高いです(92点/100点)。
不確実性の高い文化と低い文化の差は仕事の進め方にも表れます。
日本のように不確実性の回避度が高い文化では、事前に入念にリスクを検討し「この方法ならいける!」となった段階で実行に移します。
一方、アメリカのように不確実性の回避度合が低い文化では、まず試してみてうまくいかなかったら修正する方法をとります。
そのため、日本人はアメリカ人に対し「なぜ、こんな適当な状態で仕事を進めるのか」とイライラすることがあります。
反対にアメリカ人は日本人に対し「こんな細かいことを気にしていたら仕事が進まないじゃないか」といらだちを覚えます。
このように不確実性回避度の高さにより、仕事の進め方が変わってきます。
長期主義的傾向の強さ
長期志向/短期志向も文化により異なります。
- 将来の成功のために教育に投資し学ぶことに余念がない
- 時間がかかっても粘り強く努力する
- 長期視点でものごとを考えるため、何が正しく何が悪いかは状況によって異なると捉える
長期志向が高い国の代表例は韓国、台湾、日本、中国、ドイツなど。
- 努力はすぐに結果に結びつくべきだと考える
- 短期的な利益を求めるため、四半期決算を重視しがち
- 絶対的な正しさを求める
短期志向の国の代表例は中東諸国、アフリカ諸国、アメリカ、ニュージーランド、デンマークなどです。
長期志向の日本に、短期志向のアメリカの経営手法が導入されていますが、成功しているとはいいがたい。
たとえば、四半期決算、ROI重視や、目標管理制度などです。
制度だけは導入されたものの、機能していない企業が大半でしょう。
文化の違いを考慮せず制度だけ導入してもうまくいかない典型例です。
人生の楽しみ方:快楽的か抑圧的か
最後の指標は人生の楽しみ方で、一言でいえば「ポジティブな社会かネガティブな社会か?」です。
- メキシコ
- コロンビア
- スウェーデン
- イギリス
- アメリカ
- エジプト
- ロシア
- 東欧
- 中国
- インド
日本は平均値
日本は42点/100点で、ほぼ平均値です。
これらの差は仕事をシリアスにとらえるか、楽しみの一つに捉えるかに影響します。
快楽的な国の人は、抑圧的な国の人に対し「もっと楽しんで仕事をすればよいのに」と感じます。
反対に抑圧的な国の人は、快楽的な国の人に対し「もっと真剣に仕事に取り組むべきだ」と感じます。
このような違いは、特に長期間にわたるプロジェクトの場合に軋轢(あつれき)を生みやすいです。
異文化理解、異文化コミュニケーションの事例~日本とアメリカ~
ここまでホフステードのモデルを元に文化を表す6つの特徴を説明してきました。
次に、これらの指標をもとに日本文化とアメリカ文化を比較していきます。
日本とアメリカの点数をチャートに表しました。
チャートを見ると、日本とアメリカにはさまざまな文化の差があることがわかります。
以下で、私が経験した事例を踏まえながら文化の差がどのように表れるかを説明します。
日本人が「社内協議に時間がかかりすぎ」と言われる理由
アメリカ企業とミーティングをした後、相手から当日使用したプレゼン資料を提出してほしいとリクエストを受けました。
日本企業では社外に機密データを出す際は上司の許可が必要です。
そして、上司の承認が下りなかったり、なかなか捕まらなかったりすると、相手に提出するまでに1週間も2週間もかかってしまうことがあります。
相手から催促がくるたびに「社内承認に時間がかかっている」と説明するのですが、なかなか理解してもらえません。
「なぜ社内協議にそんなに時間がかかるのか?」と問われたこともあります。
この原因は、アメリカと比較し日本は集団主義傾向が強く、権力格差が高いことにあります。
個人の意志よりも組織のルールが重視されるため、規則に則った承認を得る必要があります。また、権力格差が大きく基本的には上司の都合が優先されます。
アメリカ人はこの価値観が理解できません。
そのため「たかがプレゼン資料提出に、なぜこんなに時間がかかるのだ」とイライラされてしまうのです。
プロジェクトが佳境の時期にビジネスパートナーがバケーションに
スケジュール的にタイトなプロジェクトを、アメリカ企業と進めていたとき。
ビジネスパートナーと電話会議で「ゴールに向けて一緒に頑張ろう!」と話しました。
その後、メールで問い合わせをしたのですが、返ってきたきたメールに驚きました。
「私はこれから2週間バケーションだから、連絡は●●さんにして下さい」
クリスマスでも夏休みの時期でもなかったので、このようなプロジェクトが佳境の時期に2週間もバケーションをとるのか、と唖然としました。
私としては「このような時期にバケーションをとるべきではない」と感じたのでした。
このギャップは「人生の楽しみ方」の指標の差に表れています。
アメリカ人の方が快楽的で、日本人は抑圧的。
そのため、アメリカ人はたとえプロジェクトが佳境でもしっかりとバケーションをとるのが当然と感じるのでしょう。
実際、引継ぎはしっかりなされており、実質的に問題は生じませんでした。
異文化理解力の本質はメタ認知力
ここまで、ホフステードの異文化理解の指標をもとにアメリカ文化と日本文化を比較してきました。
では「異文化理解力」とはどのようなものなのでしょうか。
- 海外滞在経験があっても身に着かない
- 自分のメガネと他者のメガネに気づく~メタ認知力~
- 文化の指標は便利だがレッテル貼りに注意する
海外滞在経験があっても身に着かない
まず、残念なお知らせです。
海外滞在経験があるだけでは、異文化理解力は身に着きません。
なぜなら、仮に海外滞在が長くても、自国の文化を基準に過ごしていたら異文化理解は進まないからです。
たとえば、海外に駐在となったとき、日本人同士のコミュニティで固まり、「現地の従業員は定時になるとすぐ帰ってしまう。やる気が足りない」と愚痴を言い合っていると想像してみてください。
このような状況では、現地の文化を理解できるようになりません。むしろ、否定的な感情が増していきます。
実際、研究結果でも海外滞在年数と異文化理解力は比例しないことがわかっています。
ご参考:経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法
自分のメガネと他者のメガネに気づく~メタ認知力~
なぜ長期間海外に滞在しても、異文化理解が深まらないのでしょうか。
それは、自分のメガネで物事を見ていて、他者のメガネに気づかないからです。
ここでいうメガネとは、ものの見方や価値観です。
自分のものの見方や価値観が絶対的だと思っていると、文化が違う人の考え方や行動を理解できません。
たとえば、「プライベートを犠牲にしてでも仕事を頑張るべき」との価値観を持つ文化で育った人は、「仕事は早く切り上げてプライベートを楽しもう」との価値観を受け入れがたいものです。
特に海外に移住し、自分以外の他人がみな正反対の価値観を持っていると、ギャップが生じる原因がわからず辛い思いをします。
実際、私が関西に住み始めたときに感じた違和感の原因も同じです。
「雑談にもオチをつける」との考え方を想像したことがなかったので、なぜコミュニケーションギャップが生じるのかわからなかったのです。
自分のメガネと他者のメガネは別物と気づくのが重要
ここで重要なのは、自分のメガネと他者のメガネは別物と気づくことです。
絶対的な価値観は存在しないため、どんなに似ているように見えても自分のメガネと他者のメガネは違うのです。
このように自分のメガネと他者のメガネは別物と認識し、一段高い視点から見ることを「メタ認知」と呼びます。
言い換えると自分の価値観を薄めて相対化することです。
メタ認知できるようになる第一歩は、文化により価値観に大きな差があると「知識を得る」ことです。
知識を得るのに、ホフステードの異文化モデルは有用。
なぜなら、モデル化することで体験談や事例を体系化できるからです。
体系化することにより、人の記憶に定着しやすくなります。
つまり、異文化理解のモデルを知った上で、海外滞在の経験を積んだり、他人の体験談を聞いたりすると異文化理解力を高めることができるのです。
⇒ご参考:メタ認知とは?具体例でわかりやすく解説【ビジネス、学習に必須のスキル】
文化の指標は便利だがレッテル貼りに注意する
ホフステードの異文化理解モデルの指標は便利ですが、注意すべき点があります。
それはレッテル貼りを避けることです。
理由は3つあります。
- 国の文化と個人の価値観は必ずしも一致しない
- 調査対象の人が国を代表しているとは限らない
- 時間が経つと文化は変わる
国の文化と個人の価値観は必ずしも一致しない
同じ国に住んでいても個人の価値観は多様です。
なぜなら、ホフステードの指標はあくまで、アンケート調査結果の平均値を指すからです。
当然ですが、アンケート結果には分布があります。
そのため、個人個人と関わるときに、ホフステードの指標の値とずれた価値観を持っていることはよくあります。
図のように、日本人にも仕事で成果を出すより人生を楽しみたいと考えている人もいますし、アメリカ人にも禁欲的、抑圧的な人は存在します。
このように国の文化は個人の価値観の平均値であるため、一人一人の価値観とは必ずしも一致しません。
調査対象の人が国を代表しているとは限らない
次に、そもそもアンケート調査を受けた人たちが国を代表しているとは限りません。
なぜなら、国の文化を抽出するには、多くの人、異なる立場の人からアンケートをとる必要があり、簡単には実施できないからです。
実際ホフステードの調査は世界中のIBM社員を対象に行っています。IBM社員はエリート層であり、国全体の文化を表しているとは限りません。
他の調査でも同様です。
アンケート調査は限られた集団に対して行われます。
アンケートを受けた対象がどんな人か、何人くらいが回答したのかなど、調査の前提に注意する必要があります。
時間が経つと文化は変わる
時代とともに文化は変わります。
なぜなら、社会環境が時代とともに変わると人々の価値観も変わるからです。
実際、日本の文化を振り返ると、時代とともに変化していることがわかります。
たとえば、ホフステードが調査をして1960~70年代に比べ、日本社会の男性性は弱まっていると考えられます。
当時は男女雇用機会均等法が施行される前であったため、現在よりも男性中心の社会だったと想像できます。
しかし50年近くかけて、女性の社会進出が進んでいます。
海外と比べると、まだまだ不足しているとの議論はありますが、1960~70年代と比べれば格段に進んでいるでしょう。
2010年頃に「草食系男子」との言葉が流行しました。これも日本の男性性が弱まっているのを表しています。
50年前の日本は非常に男性性が強い価値観であったため、女性性が強まる(男性性が弱まる)のを見るとギャップを感じ「頼りない」「男らしくない」と感じるのでしょう。
また、いつの時代でも大人が「最近の若い者は......」「自分が若かったときは......」と言うのは、国の文化や価値観が変遷し続けていることを示しています。
このように人口動態や法律などの社会システムが変わると、国の文化もゆるやかに変わります。
1年2年では大きく変わることは稀ですが、10年単位で見ると価値観が大きく変わることがあります。
そのため、過去の調査結果をもとに「日本の価値観は●●だ」とレッテル貼りをすると、現実とのずれが生じてしまいます。
以上3つの理由から、異文化理解のために指標は便利ですが、レッテル貼りをして視点を固定するのは避けるべきです。
まとめ:異文化理解力を身に着けよう
ここまで、異文化理解力について説明してきました。これから先、異文化理解力はますます重要になるでしょう。なぜなら、グローバル化の流れは止められないからです。
局所的に見ると、ナショナリズムによる揺り戻しはありますが、大きな流れを見るとグローバル化は進んでいきます。しかし、グローバル化が進んでも国による文化の違いは保たれるでしょう。
なぜなら、文化を形作るのは歴史であり、異なる国の人たちが歴史を共有するのは困難だからです。そのため、グローバル化が進むと、文化的背景が異なる人たちとビジネスをしたり、コミュニケーションをとったりする機会が増えます。
だからこそ、異文化理解力はIQ(知能指数)、EQ(こころの知能指数)に続く重要な要素だと言われるのです。
この記事が、異文化理解力を身に着ける第一歩になることを願っています。
異文化理解の本質を知りたい人へ
異文化理解力は海外に出たり、外国人と関わるだけでは身につきません。なぜなら、これだけでは「異文化理解の本質」が分からないから。
今回、『たった3通で異文化の本質がわかる無料メール講座』を作成しました。
少しでも気になる方は読んでみてくださいね。
参考文献
経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法
異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養