この記事は、以下に当てはまる人に向けて書いています。
- 外国人の上司、同僚、部下がいるが、コミュニケーションに悩んでいる......。
- 海外のお客様やサプライヤーと一緒に仕事をしているが、思うように仕事が進まない......。
文化により上司、部下との関係性はさまざまです。特に海外と仕事をしたり、グローバルに組織をマネジメントしたりする際は、リーダーシップスタイルの文化的な違いを理解することは重要です。
たとえば、アメリカは「平等主義」で「フラット」、日本は「ヒエラルキー的」と言われることがあります。しかし、このように文化の違いを一つの軸のみで捉えると、トラブルが生じます。なぜなら、文化の違いは一つの軸で表せないからです。
この記事では、文化によるリーダーシップの違いを、「権威」と「意思決定スタイル」の2軸で整理します。そして、アメリカと日本を事例にあげ、どのような違いがあるかを解説します。
タップできる目次
異文化マネジメントで重要な2つの軸
アメリカは「平等主義」で「フラット」と言われます。たしかに、会議では言いたいことを言いますし、上司は部下にも自分をファーストネームで呼ばせます。
しかし、日本人からするとアメリカ人の意思決定は、独裁的に見えることもあります。トップの「鶴の一声」で方針が決まるように見えるからです。
このように、リーダーシップのとり方を、「フラット的⇔ヒエラルキー的」の一軸で捉えると、文化の特徴を見誤ります。
なぜなら、リーダーシップで重要な指標は「権威をどうとらえるか?」と「意思決定に誰が影響を与えるか?」の2つがあるからです。
権威をどうとらえるか?
人の階級や地位にどれだけ注意を払い、敬意を抱くかの指標です。要はフラット的か、ヒエラレルキー的かということです。
日本はヒエラルキーを重視する文化です。以前に比べればフラット化が進んできたものの、肩書が重視されますし、上司の意見は尊重される傾向にあります。
一方、アメリカやヨーロッパの一部の国々では、ヒエラルキー重視のマネジメントからメンバーの参画を促す平等主義的な組織運営に移行してきました。
事例を挙げると、権限移譲が進み、目標管理や360度評価などの仕組みが広がりました。また、上司を肩書ではなくファーストネームで呼ぶ習慣が定着しています。
意思決定に対する考え方
一般的には、ヒエラルキー重視の社会ではボスが意思決定を下し、フラットな文化においてはメンバーの合意で決定が下されると考えられています。しかし、実際に世界の文化を比較すると、ヒエラルキーと意思決定の手段は相関しないことがわかっています。
トップダウン式の意思決定
アメリカは、組織のフラット化が進みましたが、合意による意思決定をとることは多くありません。反対に、上司が意思決定の権限を持ちます。つまり、トップダウンの意思決定です。なぜなら、アメリカ企業は迅速で柔軟な決定を好むからです。
トップダウン式の意思決定の文化では、「決定」は「議論を進めるための合意」程度の意味合いです。新しい意見が出たり状況が変わったりすると、「決定」された事柄がコロっと変わります。
言い換えると、トップダウン式の意思決定をする文化にとって、「決定」は確定的なものではなく、あとで修正可能なものということです。
トップが意思決定をできるため、「決定」をするためのコストが小さいからだと考えられます。
合意形成による意思決定
日本、ドイツ、オランダなどは対照的に、合意形成を重視します。日本企業では、合意形成の前に「根回し」や「稟議(りんぎ)」をするのが一般的です。
つまり、意思決定を下す前に、関係者と細かい点を調整するということです。
合意を重視する文化では、「決定」したことは簡単には変更できませんし、変更すべきでないと考えられています。「決定」に至るまでのコストが大きいからだと考えられます。
合議型の文化では、意思決定までの時間がかかりますが、いったん決まった後の実行フェーズではスピードが速いです。なぜなら、「決定」に至る前にすでに関係者の調整がすんでおり、全員がコミットした状態になるからです。
「権威」と「意思決定」で世界の文化をマッピング
上の図は、各国の文化を「権威」と「意思決定」でマップ化したものです。
このように、リーダーシップを文化間で比べるには、「権威の捉え方」と「意思決定の考え方」の2つの軸を比較することが重要です。
このマップをみると、国によるリーダーシップの捉え方がなんとなく見えてくるはずです。
日本とアメリカの比較|権威と意思決定
マップを見るとわかるように、日本は「ヒエラルキー重視×合意型」、アメリカは「平等主義×トップダウン型」です。つまり、日本とアメリカはリーダーシップのとり方が正反対ということです。
以下で具体的に日本とアメリカの違いを比較します。
日本~ヒエラルキー×合議重視~
ヒエラルキー×合議重視型の文化は、日本以外にドイツやベルギーがあります。
これらの文化には以下の特徴があります。
- 部下は上司の決定に従うが、意思決定のプロセスに参加したいと考える。
- 忍耐と徹底が重視される。各ステークホルダーを参画させるため、必要な時間を費やすことが求められる。
- 収集した情報の質、完成度、論拠の確かさが重要。なぜなら一度下した決定は、簡単に変更できないコミットメントだから。
アメリカ~平等主義×トップダウン
平等主義×トップダウンの文化はアメリカ以外に、カナダ、イギリス、オーストラリアなどがあります。
これらの文化には以下の特徴があります。
- 地位によらず、決定が下される前に意見をハッキリ言う。上司に対してでも、部下は明確な意見を伝える。
- いったん結論が出たら、たとえ自分の意見と違っていても、上司に同調して決定を尊重する。なぜなら、決定後にも反対すると、「仕事がしにくい相手」と思われるから。
- 決定後も柔軟に対応する。この文化では、「決定」が変わらないことはめったにない。たいてい、後日、必要に応じて修正や再検討がなされる。
アメリカ人と仕事をするときは「決定」の意味合いに注意する
ここまで比較してきたように、日本とアメリカはリーダーシップのとり方が正反対です。
特に注意が必要なのは「決定」の意味合いの違いです。
以下で私の恥ずかしい体験談を紹介します。
先方の開発トップが「決定」した
かつてアメリカ企業と協働開発をしていたときのこと。
プロジェクトを進める上で、ある技術に関する方式を選択する必要がありました。A方式とB方式とします。
我々にとって、A方式を選ぶかB方式を選ぶかは重要な意思決定でしたので、社内の関係者との調整を入念に行いました。営業部、製造部、品質保証部などです。
そして、社内では「A方式が良いだろう」という「決定」を下しました。なぜなら、技術のスジが良いし開発に成功した際には、市場が大きくなりそうだったからです。
しかし、協働開発ですので、先方のアメリカ企業とも合意する必要がありました。そこで、先方の開発トップも交えたミーティングを設け、今後の進め方を議論しました。
会議中、先方のメンバーの中には「A方式が良い」という人もいましたし、「B方式の方が良い」と主張する人もいました。
30分ほど議論した後、先方の開発トップが「よし、A方式で行こう!」と発言しました。その結果、全体の意見はまとまり我々も胸をなでおろしました。「これで、A方式で進められる」と。
いったんA方式に「決定」したが、B方式に変更が発生
安心したのもつかの間、しばらく後にアメリカ企業の担当者から、突然「私たちはB方式を採用することにした」言われました。
私は頭の中が真っ白になりました。気を取り直して、「この前のミーティングで、A方式でいくと決定したじゃないか!」とクレームを伝えました。
するとアメリカ企業の担当者は事もなげに、こう言いました。「状況が変わったからね」と。
その後、私は各部署から怒られながら、社内を説得するために奔走するハメになりました。
アメリカ企業と日本企業の「決定」の重さを知っていれば防げた
いまになって振り返ると、アメリカ文化と日本文化における「決定」の違いを知っていれば防げた失敗です。
もし、この違いを知っていれば、事前に社内にも「アメリカ企業の決定と、日本企業の決定は意味合いが違うので注意してください」と伝えることができたはずです。
また、いったん先方が「決定」した後、担当者に方針変更がないか、こまめに確認を入れていたはずです。
このように、文化間のリーダーシップのとり方の違いを知ることで失敗を防ぐことができます。反対に、リーダーシップのとり方の違いを知らないと、私のようにビジネスで失敗してしまいます。
まとめ|文化の特徴を知り、異文化マネジメントを成功させよう
この記事では、文化によるリーダーシップのとり方の違いの比べ方を説明しました。具体的には、「権威の捉え方」と「意思決定の考え方」の2つの軸で比較すると文化の違いを理解できます。
これらの軸で比べると日本とアメリカは正反対です。そのため、アメリカ人と一緒に仕事をするときはリーダーシップの捉え方の違いに注意する必要があります。
特に、アメリカ人にとっては「決定」の重さが日本人よりも軽いため、簡単に決定がくつがえされるケースがあります。
私のような失敗を防ぐためにも、異文化におけるリーダーシップのとり方の違いを認識することは重要です。
異文化の人と仕事をするには、リーダーシップのとり方以外にも多くのことを知る必要があります。なぜなら、異文化の価値観を知らないとビジネスでトラブルが発生してしまうからです。異文化理解についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみて下さい。
⇒異文化理解の必要性 ~海外とコミュニケーションする人必見~
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参考文献
異文化理解力 ― 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養
異文化適応のリーダーシップ DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文