- 英熟語ってそんなに大事なの?
- 丸暗記しなきゃいけないんでしょ?
そう思っている人には、ぜひこの記事を読んでください。
「英熟語の鬼100則 」を出版された時吉秀弥先生が、英熟語に潜むイメージと論理を解説してくれました。「英熟語の鬼100則」は出版から1ヵ月で1万4000部のベストセラーになっており、口コミでも「英語独特の感覚を日本語で理解できた」と評判です。
私自身、このセミナーを受けて、
「ネイティブはこんな感覚で英熟語を使っていたのか!」
「ややこしいクジラの構文は、こういう論理で説明ができるのか!」
など多くの発見がありました。
この記事には、時吉先生のセミナー内容をまとめました。
タップできる目次
ネイティブの気持ちから読み解く「熟語のヒミツ」ウェビナーの概要
講師プロフィール
時吉秀弥(ときよし・ひでや)
株式会社スタディーハッカー コンテンツ戦略企画部シニアリサーチャー。神戸市外国語大学英米語学科卒。米国チューレン大学で国際政治を学んだのち、帰国。
ラジオパーソナリティという特殊な経歴を経つつ、20年以上にわたって予備校で英語も教えてきた。英語を教えるなかで自身の英文法観が認知言語学に通じるものだと知り、東京言語研究所にて認知言語学や日本語文法、音声学などを学ぶ。2010年、同所で理論言語学賞を受賞。
2019年11月に出版された『英文法の鬼100則』(明日香出版社)は7万5,000部を突破し、英文法書として異例のヒットを記録する。
「英熟語の鬼100則」の出版記念セミナー
今回のセミナーは、「英熟語の鬼100則」の出版記念セミナーの位置づけです。時吉先生が2019年に出版した「英文法の鬼100則」は、7万5000部という英文法書としては異例のベストセラーになっています。今回、2020年11月13日に二冊目の本として「英熟語の鬼100則」を出版しました。
12/12の時点で、既に1万4000部の増版が決まっています。「難解な英熟語が非常にわかりやすく解説されている」と評判で、Amazonの「英単語・熟語」ランキングでも4位になっています(2020年12月16日)。
なぜ、時吉秀弥先生は英熟語の本を書いたのか?
「英単語帳」なら勉強したことがあるけど、「英熟語」を学んだことはあまりない……。
こう思う方もいるかもしれません。
そもそも、なぜ時吉先生は英熟語の本を書かれたのでしょうか?
単語だけ覚えても、英語を「使える」ようにならない
それは英単語だけ覚えても、英語を「使える」ようにならないからです。英語を「使える」というのは、英語を書いたり話したりできることです。
たしかに英単語を覚えれば、ある程度は英文を読めるようになります。私たち日本人が中国語の文章を見て、漢字を拾い読みして何となく意味を想像するプロセスと似ています。
しかし、英単語を覚えるだけでは、書いたり話したりできるようになりません。
効率的な言語の身につけ方とは?
時吉先生は英語だけでなく中国語などの外国語を学んでいます。なぜかというと、外国語を身につけるプロセスで何が重要か? を再確認するためです。
中国語を学びながら改めて発見したのは、以下のプロセスで学ぶと効率的に言語を習得できるということです。
- 骨組みとなる構文と熟語を学ぶ
- 単語を覚え、骨組みに当てはめる
なぜ、単語よりも先に構文と熟語を先に学んだ方がよいのでしょうか?
その理由は、文章の心臓部は「動詞」だからです。
動詞を効果的に使うためには「構文」と「熟語」をマスターするのが早道です。「構文」については、前著の「英文法の鬼100則」で詳しく解説をしています。そのため、今回の新著では「熟語」にフォーカスした本を書いた、というわけです。
以下では、本セミナーの内容をわかりやすく解説します。
英熟語に潜む感覚と論理を知る
丸暗記するのではなく、熟語に潜む感覚と論理を知ることが大事です。
英語を記憶に定着させる方法
英語を効果的に記憶に定着させるには以下の2つのアプローチがあります。
1. イメージで捉える
2. 記憶の精緻化
イメージで捉える
1つ目は、英語をイメージや映像で捉えることです。単に文字を丸暗記するのではなく、どのようなシーンで、どんな感情で使うのかをイメージ化すると、記憶に残りやすくなります。
たとえば、“get up in the morning(朝、起きる)”という表現を覚えるとき。布団にくるまっている自分が、ムクっと起き上がる瞬間をイメージします。このイメージと英文をセットで覚えると、記憶に残りやすくなります。
記憶の精緻化(せいちか)
2つ目は、記憶の精緻化(せいちか)です。記憶の精緻化とは、英語表現を細かく構造化して覚えることです。本棚に本をキレイに並べるように、記憶が整理され記憶に定着しやすくなります。
具体的には英語表現をロジックに分解して理解できるようになると覚えやすくなります。
“on one’s mind”と“in one’s mind”の違い
“on one’s mind”と“in one’s mind”のイメージを比較しながら見てみましょう。両者は混同しがちですが、onとinのイメージを捉えると違いがわかるようになります。
“on”は上からのしかかる「圧力」のイメージです。一方、“in”は「枠の中」、「空間の中」です。
そのため、“on one’s mind”は頭にのしかかる感覚となり、「気がかり」との意味になります。
“I wasn’t thinking about the future. The future wasn’t on my mind.”
「先のことなんて考えていなかった。将来なんて気にもしていなかった。」
一方で、“in one’s mind”は「記憶や考えが頭の中に存在する」との意味合いになります。
“OK. With that in mind, we will continue the game.”
「よし、そいつを頭に入れた上で、試合を続けよう。」
このように、“on”と“in”の感覚を知り、熟語をイメージで捉えると覚えやすくなります。
“give”のさまざまな用法
次に、“give”のさまざまな用法を解説します。これも、大元となるイメージが重要です。
“Give”は「相手に与える」イメージであり、「相手に許す」との感覚があります。ここから派生して、「押してくる相手を許す」、つまり「へこむ」との意味となります。
“A ripe fruit gives a little when you press it.”
「熟した果物は押すと少しへこみます。」
実は“give”は動詞だけでなく名詞も存在し、「弾力」という意味を表します。へこみやすさを表す意味です。
“This rope has a give in it.”
「そのロープは弾力がある。」
さらに、“give in”となると「押してきた相手に優勢を許し、内側に崩れる」=「屈する」との意味合いになります。
“I gave in to temptation and ate another slice of pizza.”
「私は誘惑に負けて、もう一切れピザを食べてしまった。」
なぜ、同じ意味を表す英語表現がたくさんあるのか?
日本語と同様に、英語には同じ意味を表す複数の英語表現があります。なぜなのでしょうか?
英語の歴史をひもとくと、その理由が見えてきます。
“put off”と“postpone”【延期する】
“put off”と“postpone”は、どちらも「延期する」という意味合いです。
“put”は「置く」、「ある位置にセットする」。“off”は、「くっついていたものがポロリと離れる」様子を表します。そのため、「決めていた日程を離して置く」、つまり「延期する」との意味になります。
では、両者はどう違うのか? その違いを知るには英語の成り立ちを理解する必要があります。英語には、もともとの英語(古英語)とラテン語があります。後ほど解説しますが、ラテン語は11世紀頃にフランスから入ってきたものです。
日本語の「やまとことば」が古来の日本語であるのに対し、「漢語」が中国など大陸から入ってきたのと似ています。
ここで“put off”は古英語(やまとことば)で、“postpone”はラテン語(漢語)に相当します。ニュアンスとしては“put off”は「先延ばしする」、“postpone”は「延期する」という感じです。
もともとの英語とラテン語が混ざっているので、同じ意味を表す英語表現が複数あるわけです。
11世紀、イギリスはフランスに支配された|ノルマン・コンクエスト
1066年にイングランド(イギリス)はノルマンディー公国(フランス)に征服されました。ノルマン・コンクエストと呼ばれます。
⇒ご参考:ノルマン・コンクエスト
フランス人の支配は3世紀の間続き、この間にイギリスはフランスの文化や言語から影響を受けることになります。もともイギリスはゲルマン(ドイツ・デンマークなど)の文化の影響が強かったのですが、ノルマン・コンクエスト以降はフランスの影響を強く受けることになります。
特に、支配階級である貴族はフランスの文化や言語(ラテン語)の影響を受けました。
先ほど紹介した“put off”はもともとの英語表現である一方、“postpone”はフランスから輸入されたラテン語が元になっています。
まとめると、イギリスがラテン語圏のフランスに支配された歴史があるため、同じ意味でも複数の英語表現がある、ということです。
なぜ“cow”は動物の牛、“beef”は食用の牛を表すのか?
この歴史にまつわる面白い俗説があります。生きている動物を表すときと、食用の肉を表すときで別々の英単語を使います。たとえば“cow”は動物の牛ですが、食用の肉は“beef”と呼びます。“cow”はもともとの英語表現で、“beef”はラテン語です。この違いも、フランス支配の歴史の影響との説です。
どういうことかと言うと、支配されていたイングランド人が育てた動物(cow)の肉を、支配していたフランス貴族が食用として食べていた(beef)ということです。
このように、英語の中にラテン語源の単語が多く取り込まれています。
日本語の「やまとことば」と中国大陸から輸入された「漢語」があるのと似ていますね。
なぜ、一つの単語がさまざまな意味を持つのか?
反対に、「なぜ一つの単語がさまざまな意味を持つのか?」を探ってみましょう。つまり、多義語です。ここでは“put up”を事例に解説します。
認知言語学をもとにすると、多義語が生まれるがわかります。
根っこにある意味は共通
多義語の意味を理解する上で重要なのは、「さまざまな意味を持つが、根っこにある意味は共通」と捉えることです。根っこをプロトタイプとして広がっていくイメージです。根っこの感覚を理解すると応用がきくようになります。
では、“put up”の根っこはどのような意味なのでしょうか?
“put”は「ある位置にセットする」、“up”は「上へ」を表します。そのため、“put up”の根っこは「上方へセットする」との意味になります。
この根っこを理解した上で“put up”のさまざまな表現を見てみましょう。
“put up”の表現|物理的な意味
“put up”には「挙手する」や「札を掲げる」「掲示する」との意味があります。手や札を「上方へセットする」イメージです。
“Put up your hand if you have any questions.”
「質問があれば手を挙げてください。」
“I put up a sign on my door.”
「私はドアに札を掲げた。」
“put up”の表現|抽象的な意味
「挙手する」や「掲示する」は物理的な意味でしたが、さらに派生して抽象的な意味にも使われます。
たとえば、“put up A = show A”(見せる、示す)との用法があります。
なぜか?
それは、何かを上に掲げているイメージが、「何かを示している」、「見せる」との意味に派生したからです。あくまで「上方にセットする」という感覚は共通しています。
“Kenny put up an outstanding performance.”
=“Kenny showed an outstanding performance."
「ケニーは特に優れた出来栄えを発揮した。」
“Even when I was grounded, I didn’t put up a fight.”
「外出禁止をくらったときでさえ、私は逆らったりしなかった。」
さらに応用の“put up”
さらに意味が派生して、“put up”は以下のような場面でも使われます。
“put up”には「泊める」という意味があります。これは、家に人を上げるイメージから派生しています。
“Can you put me up for the night?”
「今晩、一晩泊めてくれないか?」
“put A up for sale”で「売りに出す」の意味です。 先ほど紹介した“put up = show(掲げる)”のイメージです。
“My father put his house up for sale.”
「父は自分の家を売りに出した。」
“put up with”は「我慢する」との意味です。「上にあげる」=「あげて、しまいこむ」=「感情を押し殺す」=「我慢する」という派生のしかたです。
“You need to learn to put up with things.”
「あなたは、ものごとに対して我慢することを学ぶ必要があります。」
メトニミー(換喩)で言葉が派生する|赤ずきん=少女
なぜ、このように一つの表現の意味が派生していくのかを、認知言語学の視点で解説します。認知言語学の中に「メトニミー(換喩)」と呼ばれる概念があります。
メトニミーとは、隣接する概念に言葉が拡張される様子を表します。分かりづらいと思うので、具体例を挙げて説明します。
赤ずきんちゃんに見るメトニミー
あなたは「赤ずきん」と聞いて、何を思い浮かべますか?
赤ずきんをかぶった女の子を思い浮かべた人が多いのではないのでしょうか。本来、「赤ずきんちゃん」はただの少女です。しかし、赤いずきんをかぶる姿がトレードマークになり、「赤ずきんちゃん」がニックネームとなっています。
つまり、赤ずきんという言葉が、隣接する少女を表す表現に拡張されたということです。
電話機と受話器
もう一つ例を挙げてみます。
電話に出ることを、「電話をとる」と表現することがあります。正確には「電話の受話器をとる」と言うべきですが、受話器に隣接する電話に言葉が拡張されています。
一般に、言葉には「目立つ情報を表現する」傾向があります。そのため、「受話器をとる」が派生して「電話をとる」になったと考えられます。
同様に、「テレビを見る」と言いますが、正確には「テレビで放送番組を見る」と言うべきです。テレビという物理的な機械の概念が拡張され、放送番組に対しても使われるようになっています。
このようにメトニミーにより、一つの単語が多くの意味を持つということは、日本語でもよくあります。英語も同様で、先ほど解説した“put up”も同じように、メトニミーによりさまざまな意味で使われるようになっています。
学校で習った「クジラの構文」をロジックで解説
学校教育で「クジラの構文」を習った人も多いかと思います。クジラの構文とは、以下の例文で表される比較表現です。
“A whale is no more a fish than a horse is.”
「馬が魚でないのと同様、くじらも魚ではない。」
なぜ、この構文(no more A than B)がこのような意味になるのか、不思議に思う人もいるかもしれません。実は、ロジックで分析するとクジラの構文が理解できるようになります。
クジラの構文はネイティブも使う
「クジラの構文なんて受験のための英語で、普段使わないんじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。しかし、映画やドラマなどで使われています。
たとえば以下のような使い方です。
“I am no more a kid than you are.”
「あなたが子供でないように、私も子供じゃないよ。」
“He is not a murderer than you and me.”
「あなたや私と同様に、彼は殺人を犯していません。」
このように、クジラの構文は「生きた英語」です。
クジラの構文を理解する基本的な考え方
クジラの構文を理解するため、基礎となる考え方を説明します。前準備として“no more than A(たったのA)”のロジックを説明します。
基本となる原則は以下の3つです。
2. noの後ろにくる比較級は「思い込み」や「期待値」を表す
3. thanは「基準値」、つまり±0を表す
これらを頭に入れて、次の文章の意味を考えてみましょう。
“This bag cost no more than 1,000 yen.”
「このカバンはたった千円だった。」
1) “more than 1,000 yen”は、「1,000円という基準値より高そう」とう意味合いを表します。
2)その前に“no=ゼロ化”がつくことで、リセットされ「一気に基準の1,000円(±0)まで落とされる」感覚です。「えっ!1,000円しかしないの!?」という驚きが表現されます。
そのため、「たった1,000円」という訳につながる、というわけです。
クジラの構文の分析
クジラの構文“no more A than B”も、“no more than A(たったのA)”と同じ構造です。
ポントは2つです。
2. thanの後ろにくるのは「ありえない非常識」
thanの後ろにくる言葉が省略されている
クジラの構文ではthanの後に“a fish”が省略されています。これを復元すると以下のようになります。
“A whale is no more a fish than a horse is a fish.”
thanの後ろにくるのは「ありえない常識」
この例文では“a horse is a fish”は、「ありえない非常識」です。
クジラの構文を理解する3ステップ
ステップ1|非常識を基準に考える
“than a horse is a fish”で、「馬は魚です」という非常識を基準にして考えます。
ステップ2|常識よりのことを考える
“A whale is more a fish”で、「クジラのことは、(馬よりも)もっと魚よりだと思っているかもしれないが......」ということを表します。
ステップ3|常識と思っていたことが、実は非常識と同レベルだったと気づく
“A whale is no more a fish”となることで、「実際にはクジラが魚なんてことはなくて(no=ゼロへ)、それって馬を魚と言っているのと同じレベルだよ」となります。
あえてギャップを作っておいて、最後に実はギャップがないことを示し、驚きを表す感じです。
以上をまとめると、「クジラを魚だと言うなんて、馬を魚と言うのと同じようなものだ」との意味になります。これをエレガントに言い換えると「馬が魚でないのと同様に、クジラも魚ではない」となります。
こうやって、ロジックで分析すると難解なクジラの構文を理解できるようになります。
まとめ|根っこを知れば英語がもっとわかる
時吉先生のセミナーでは、認知言語学の知見を交えながら、一つ一つの英語表現の根っこにあるイメージや論理を解説していただきました。単に英語表現を丸暗記するのではなく、核となるイメージやロジックを知ることで、「使える」英語を身につけやすくなると感じました。
さらに詳しく知りたい方は、時吉先生の著書「英熟語の鬼100則」、「英文法の鬼100則」を読んでみてください。
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