- 上司から “文章がわかりにくい” と言われたことがある
- 報告書を提出したのに“結局なにが言いたいの?” と言われた経験がある
- “わかりやすい文章を書く方法” に関する本やサイトを読んで試したが、あまり効果を感じない
この記事は、こんな悩みを持つ人に向けて書いています。
実際、私も恥ずかしい体験があります。
かつて、上司から何度も「文章がわかりにくい」と言われ報告書を差し戻されました。10回以上書き直すハメになったこともあります。
何とか文章力を改善しようと、「わかりやすい文章を書く」テクニックが書かれた本を読み漁りました。主語述語を明確にする、句読点の使い方に気を付ける、などのテクニックです。しかし、状況はあまり改善されませんでした。
わかりやすい文章を書くための本質を理解しておらず、偏ったテクニックを学んでいたからです。
- わかりやすい文章を書く2つの要件を知る(脳科学で理解)
① よくある文章術は、脳に負担をかけないテクニック
② 論理のつながりを、わかりやすく書くことが大事 ⇒この記事で解説
- 論理のつながりを示すために、テンプレートを使う
タップできる目次
論理的で分かりやすいビジネス文章の書き方
わかりやすいビジネス文章とは、どのようなものでしょうか。
以下で図を交えながら解説していきます。
分かりやすい文書2つの要素
分かりやすい文章には2つの要素があります。
- 脳に負担をかけない文書
- 論理のつながりが分かりやすい文書
下図にまとめました。
わかりやすい文章とは、「直観」で理解しやすく、かつ「論理」でも理解しやすい文章です。
「速い思考」と「遅い思考」の両方に優しい文章を目指す
行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したダニエルカーネマン博士が「ファスト・アンド・スロー」という著作を書いています。
ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
この本によると、人の脳は2つの思考システムを持っています。
速い思考(ファスト)と遅い思考(スロー)です。
速い思考は直観的にものごとを理解します。
数万年前、人類がアフリカのサバンナに住んでいた頃は、目に入るものが危険か否かを瞬時に判断する必要がありました。
ライオンの影を見逃すと生き残れないからです。
この頃の本能が脳のシステムに組み込まれています。これが速い思考です。
一方、人間は直観だけに頼って生きているわけではありません。
合理的に考え判断する思考こそが人間の特徴です。「遅い思考」です。
人間に合理的、論理的に考える力が備わっていたからこそ、農耕が発達して人口が広がり、科学・技術が発展して今の便利な社会が築かれているわけです。
わかりやすいビジネス文書を書くには、「速い思考(ファスト)」「遅い思考(スロー)」両方が理解しやすいように書くことが重要です。
脳に負担をかけない分かりやすい文章(速い思考)
まず、「速い思考(ファスト)」が理解しやすい文章の書き方を説明します。
速い思考が理解しやすい文章とは、脳に負担をかけない文章です。
人間は文章を見るとき、まず直観で「読みたい」「読みたくない」を判断するからです。
たとえば、六方全書などの法律文書や、広辞苑などの辞書を読むことを思い浮かべてみてください。
図表はなく、小さな文字がページにびっしり埋まっています。文章もカタいです。
これらの文章を読むには脳に負担がかかります。
反対に、速い思考が理解しやすい文章は以下の特徴があります。
- 主語、述語が明確である
- ひらがな、漢字の使用比率が適切である
- レイアウト、改行を適切に使い見やすい
- 図表が使われている
- 難しい言葉、言い回しをさけ簡単な言葉で表現している。
これらの文章は、脳に負担をかけず、速い思考が直観で理解しやすいです。
よくある文章術のテクニックも、速い思考が理解しやすい文章の書き方を教えています。
しかし、これだけでは分かりやすいビジネス文書を書くには不十分です。
論理のつながりが分かりやすい文章(遅い思考)
文章は直観的に読みやすいだけでなく、論理のつながりがわかりやすいことも重要です。
つまり、「遅い思考」が理解できるように書かねばなりません。
なぜなら、文章を書く目的は読み手に内容を理解してもらい、納得し行動してもらうことだからです。
たとえば上司に業務改善のため、職場にタブレットPCの導入を提案する提案書を出す場合。
提案書を読んだ上司に以下いずれかの行動をとってもらうのが目的です。
② 再検討項目を指示する
③ 提案内容を却下する
しかし、「なぜ業務改善をしたのか?」「なぜ、タブレットPCを導入したいのか? 他の手段ではダメなのか?」が理解できない提案書であったとしたら、上司としても判断のしようがありません。
つまり読み手の上司に、現状の課題とタブレットPC導入という打ち手の間の、論理的なつながりを理解してもらえない限り、ビジネス文書の目的を果たせないのです。
論理のつながりが分かりやすい文書を書くテクニック
では、論理のつながりを分かりやすく書くには、どのようにすればよいのでしょうか。
下の図で紹介するテンプレートに従い文書を書く訓練をすると、自然と論理的な繋がりがクリアな文章を書けるようになります。
論文などの技術系文書を書くためのフォーマットとして紹介されていますが、ビジネス文書一般に活用できます。
このテンプレートには4つの要素が含まれています。
以下で詳細に解説します。
背景・前提
ビジネス文書を書くとき、背景や前提を明記します。
なぜなら、読み手と書き手で前提がずれていると話がかみ合わないからです。
たとえば、以下の内容を盛り込みます。
- 従来はどうだったのか?
- 前回までの進捗はどうだったか?
- 何が前提となっているか?
課題
次に、課題を示します。
ビジネスは課題を発掘、解決するサイクルです。
つまり、課題が存在しない状況はあり得ないのです。
この項目では以下の内容を書きます。
- いま直面している課題は何か?
- なぜそれを課題と捉えているのか?
- 課題に対する仮説は何か?
手段・アプローチ
次に、課題を解決するための、手段・アプローチを述べます。
具体的には以下の内容です。
- 背景を踏まえて、課題をどのように解決しようとしているのか?
- なぜその手段をとるのか?
- その手段、アプローチはどのような意味を持つのか?
営業部員一人一人にタブレットPCを与え、顧客プレゼンに持参するようにする。
なぜなら、デジタルデバイスがあれば顧客からの質問に即回答できる。
タブレットPCなら軽量で持ち運びやすい。
また、廉価版を購入すれば導入コストを抑えられ、印刷代より安く済む。
このような内容を盛り込みます。
効果・結論
最後に効果・結論を書きます。
具体的には以下の内容です。
- 結果から何が言えるのか?
- なぜそれが言えるのか?
- 次はどうするつもりか?
タブレットPC導入に向け、営業部員にヒアリングをして機種選定を進めたいので、この先の検討を許可してほしい。
理由は以下の2点。
1つ目は、紙の印刷コスト●●円を抑えられるため、タブレットPCの初期導入コストを考えても、〇〇ヵ月で元を取れるから。
2つ目は、営業部員も顧客へのプレゼンがしやすくなるメリットがあるから。
最終的には営業部員にとっての使いやすさとコストを勘案して機種選定を進めたい。
次回は2週間後に進捗を報告する。
このような内容を記載します。
以下に、営業部へのタブレットPC導入の提案書に書くべき内容をまとめました。
事例のまとめ:論理的な提案書の内容
ここまで、論理的にわかりやすいビジネス文書をためのテンプレートの中身を解説してきました。
ビジネス文書を書く前に、箇条書きで言いたいことを整理し、このフォーマットに書きこんでみると、手段・アプローチの項目がやたら長かったり、背景・前提が全く記載されていなかったりするケースがあります。
このような文章は論理的に必要な内容が網羅されていないため、いくら流暢な日本語で書かれていてもわかりづらい文章となってしまいます。
慣れるまでは、このテンプレートをつかって、書かく内容を箇条書きで書き出すとよいでしょう。
この練習をするだけで、ビジネス文書がぐっとわかりやすくなります。
これに加えて、テンプレートの4要素のつながりを意識して書くことで、さらにわかりやすい文書を書けるようになります。
論理的で分かりやすい文章の書き方|4要素の繋がりを意識する
背景・前提と課題 「しかし」
まず、背景・前提と課題のつながりです。
両者は「しかし」でつながります。
なぜなら、これまでやってきたやり方に不都合があるからこそ、課題を設定したからです。
タブレットPC導入提案の例では、以下になります。
従来は紙をプリントして営業部員が顧客のところに持参していた。
しかし、顧客から質問を受けたときに最新情報や関連情報を示せない上、紙をプリントアウトすることでコストがかかっていた。
このように項目ごとのつながりを明示することで、論理構造がわかりやすくなります。
背景・前提と手段・アプローチ 「差分」
次は、背景・前提と手段・アプローチのつながりです。
ここには「差分」があります。
なぜなら、従来の取り組みで発生していた課題を解決するのが、手段・アプローチにあたるからです。
「差分」を明確に書くことは重要です。
読み手は、読んでいる文書に書かれていることの位置づけを知りたいからです。
位置づけとは、今回の取り組みが過去の取り組みとどう違うのか、ということです。
従来は紙をプリントして営業部員が顧客のところに持参していた。
今回は、営業部員がタブレットPCなどのデジタルデバイスを配布し、部員一人一人が顧客のところに持参するのが今回の提案内容となる。
従来の取り組みと、今回の取り組みで何が違うのかをクリアにすると、読み手は今回の内容の位置づけを理解しやすくなります。
課題と効果・結論 「裏返し」
次は、課題と効果・結論の関係性です。
効果・結論は課題の「裏返し」にあたります。
なぜなら、課題を解決するために、今回提案する手段・アプローチをとるからです。
従来は、顧客から質問を受けたときに最新情報や関連情報を示せない上、紙をプリントアウトすることでコストがかかる課題があった。
今回の提案により、営業部員のプレゼン時に、顧客から質問を受けたときに最新情報や関連情報を示せるようになる上、印刷コストを削減できるようになる。
このように、課題と効果・結論は表裏一体の関係にあります。
手段・アプローチと効果・結論 「だから」
最後は手段・アプローチと効果・結論のつながりです。
両者は「だから」で結び付けられます。
なぜなら、今回提案する手段・アプローチが得たい結果につながることを示す必要があるからです。
本提案により、営業部員がタブレットPCなどのデジタルデバイスを配布し、部員一人一人が顧客のところに持参する。
だから、営業部員はプレゼン時に、顧客から質問を受けたときに最新情報や関連情報を示せるようになる上、印刷コストを削減できるようになる。
このように、4要素間のつながりをクリアにすることで、わかりやすいビジネス文書が書けるようになります。
【まとめ】テンプレートを活用してみよう
この記事では、わかりやすいビジネス文書には2つの要件があることを説明してきました。
- 脳に負担をかけない、読みやすい文章を書くテクニック。これはいわゆる一般の文章術にあたります。
- 論理のつながりがわかりやすい文章。
この記事では、主に「2.論理の繋がりが分かりやすい文章」の書き方を解説しました。
論理のつながりは、ビジネス文書にとって重要です。
一見、難しく感じられますが、テンプレートを活用して練習することで、わかりやすいビジネス文書を書けるようになります。
慣れるまでは、テンプレートを使って箇条書きで内容を書き出す練習をしてみるとよいでしょう。
参考文献
ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 文庫 (上)(下)セット