年末年始になると、多くの人が「未来予測」をします。
ですが、大抵の未来予測は当たりません。過去にも多くの偉人が未来予測をしてきましたが、大外しをするケースも多いです。なぜならテクノロジーの未来を予測するのは本質的な難しさがあるからです。
- テクノロジーが指数関数的に発展する
- 人間の本能を考慮する必要がある
- 社会の価値観次第でテクノロジーの普及が決まる
この記事では、過去のテクノロジーの未来予測に関する「迷言」を紹介しながら、テクノロジーの未来予測が難しい、本質的な3つの理由について解説します。
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テクノロジーの予測は難しい|偉人の迷言を紹介
テクノロジーの未来予測は本質的に難しいものです。過去になされたテクノロジーに関する「予言」を見ると、難しさがよくわかります。
「コンピュータは、売れても世界全体で5台だろう。」
-1943年、IBM社長トーマス・ワトソン
「実際に空を飛ぶ機械が、数学者と機械工の協力と不断の努力によって発明されるまでには、百万年から一千万年かかるだろう。」
-1903年、ニューヨーク・タイムズ(※ライト兄弟初飛行の数週間前に掲載)
「米国人は電話を必要とするが、英国人には不要。われわれには多くの配達人がいる。」
―1878年、ウィリアム・プリース卿(当時の英郵政局主任技術者)
「この“電話"という技術は真剣なコミュニケーションの手段として利用するには欠点が多過ぎる。この技術はわれわれにとって本質的な価値は何もない。」
―1876年(ウエスタンユニオン、電報会社)
「この無線オルゴール(ラジオ)から商業価値が生まれる可能性はない。相手を特定しないメッセージに金を払う人がいるはずがない。」
―1920年代、デビッド・サーノフ(米メディア王)
「人々はテレビをすぐに見なくなるだろう。毎晩、木箱を眺めるなんて飽きるだろうから。」
―1946年、ダリル・F・ザナック氏(米映画プロデューサー)
「640KBはすべての人にとって未来永劫充分なメモリだ」
―1981年、ビル・ゲイツ
他にも、2000年代には以下のような「予言」がなされていました。
「日本では、実名登録のFacebookは流行らない」
「オサイフケータイのついていないi-phoneは日本では普及しない」
また、「AIが囲碁で人間に勝つには10年以上はかかる」と言われていましたが、Deep Mind社が開発した「Alpha Go」が囲碁チャンピオンのイ・セドル棋士を2016年に破りました。
これらの「迷言」を見るだけでも、テクノロジーの未来予測が難しいことがよくわかります。
テクノロジーの本質|指数関数的に発展する
代表例はムーアの法則
テクノロジーは指数関数的に進歩します。なぜなら、新技術に少し成果が出始めると、多くの科学者や技術者が検討しはじめ、予算がつくようになるからです。そして、成果が出るに従い、その技術開発に多くのお金が投入されるようになり、技術開発が加速されます。その結果、指数関数的に発展するわけです。
中でも有名なのは、「ムーアの法則」です。ムーアの法則とは、元インテルCEOのゴードン・ムーアが1965年に論文で発表した指標で、「集積回路上のトランジスター数は18ヵ月ごとに倍になる」というものです(実際には24ヵ月で倍)。1.5~2年ごとに倍増する、つまり指数関数的な進歩を表しています。
人間の直観や予測は線形的(直線的)
一方、人間の直観や予測は線形的(直線的)です。つまり、いまある技術の延長で考えてしまうということです。その結果、未来予測と現実の間にギャップが生じてしまい、未来を見誤るというわけです。
「コンピューターは、売れても世界で5台」と言ったり、「電話、テレビ、ラジオが普及しない」と予想したりしたのは、この線形思考が原因です。
テクノロジーに抵抗する人間の心理|穴居人の原理とは?
テクノロジーの未来予測を難しくする2つ目の理由は人間の本能に根付くものです。この本能を、ニューヨーク市立大学教授で、物理学が専門のミチオ・カク氏は、「穴居人(けっきょじん)の原理」と呼んでいます。
穴居人とは、洞窟で暮らしていた初期の原始人を指します。私たち人間の本能は穴居人の時代から変わっていません。なぜなら、穴居人の時代から遺伝子や脳のレベルで、大きく変わっていないからです。
穴居人の原理とは、新しいテクノロジーと人間の本能が対立した場合、人間の本能が勝つという原則です。
穴居人は、生き残るために「獲物の証拠」や「仲間からの評価」を重視しました。「マンモスを捕まえた」という話を聞いても、実際に現物を確認しなくてはお腹を満たせないからです。また、集団で狩りをするため、仲間外れにされると飢え死にしてしまうからです。
そして、これらの穴居人の本能は現代の私たちの中にも生き続けています。
そのため、オンライン化の技術が進んでも、WEB会議よりも対面会議を好む人が多くいます。あるいはGoogleグラス(ARグラスの一つ)のように技術が素晴らしくても、見栄えが良くないとなかなか普及しません。
このような穴居人の原理があるため、技術が発展してもすぐに普及するとは限りません。
社会の価値観が変わると、テクノロジーの普及が進む
一方で、穴居人の原理が常に働くとは限りません。外的要因などで社会の価値観が変わると、一気にテクノロジーが普及するケースもあります。
2020年はCOVID19(新型コロナウイルス)の影響で、人々の価値観が大きく変わりました。具体的には、「対面は危険」、「できるだけ人と会わずにすませたい」という感じです。
その結果、DX化(デジタルトランスフォーメーション)、ペーパーレス化、WEB会議化が一気に進みました。技術的には以前から実現可能なものばかりでしたが、穴居人の原理が働きなかなか普及していませんでした。
ところが、COVID19の影響で「穴居人の原理の山」を一気に超えて、オンライン化のテクノロジーが一気に普及しました。
このように、社会の価値観が変わると一気にテクノロジーが普及するケースもあります。
歴史を見ても、技術の浸透は社会の価値観、規制のクリアが必要
歴史を振り返ると、産業革命以前の世界においては、生産性を高めるテクノロジーはなかなか世の中に浸透しませんでした。なぜなら、支配階級にとって生産性を高める技術は脅威だったからです。支配階級はテクノロジーにより生産性が高まり、労働者が職を失い社会が不安定になることを恐れました。
そのため、画期的な技術が表れても禁止をして、技術が普及しないようにしていました。つまり、「テクノロジーにより得るもの << 失うもの」という状況であったため、技術を普及させるインセンティブが働かなかったというわけです。
一方、1700年代後半から封建制が衰退し、国民国家の台頭により国家間の競争が激化すると状況が一変します。技術を取り入れないと他国に征服されかねない状況となります。こうして、「テクノロジーにより得るもの >> 失うもの」となったため、一気にテクノロジーの導入が進み産業革命が起きた、と言われています。
これからの社会においても、「AIが人の仕事を奪う」ことが明らかになってくると、技術導入への抵抗が生まれることが予想されます。あるいは、バイオテクノロジーの進化により、人間とロボットの融合や、遺伝子操作は「人間観」を変える技術のため、倫理的な議論や規制の対象になる可能性があります。
まとめ|テクノロジーの未来予測は難しい
この記事では「なぜテクノロジーの未来を予測するのは本質的に難しいのか?」を解説しました。
- テクノロジーが指数関数的に発展する
- 人間の本能を考慮する必要がある
- 社会の価値観次第でテクノロジーの普及が決まる
上記3つの理由です。反対に上記3つのポイントを押さえれば、ある程度は未来のテクノロジーを見通すことができるようになります。
という方は以下の記事を参考にしてみてください。物理学者が、最先端の科学者300人にインタビューした結果を元にした2100年の未来を紹介します。