英会話のグループレッスンで発言するとき、「自分の下手な英語を聞かれたくないな......」と不安を感じたことはありませんか?
強く不安を感じると、落ち着かなくなり、英会話の練習どころではなくなってしまいます。
その結果、せっかくレッスンを受けても、ほとんど何も覚えていない、なんてことになりかねません。
このように感情が英語習得に与える影響を体系化したのが、スティーヴン・クラッシェンの「情意フィルター仮説」です。情意フィルター仮説を知ると、効率的に英語習得するために、どのようにメンタルや感情をコントロールすると良いか、がわかるようになります。
この記事では、情意フィルター仮説の内容と、その限界や批判について詳しく解説します。
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スティーヴン・クラッシェンの「情意フィルター仮説」(The Affective Filter hypothesis)とは?
ここでは、情意フィルター仮説の内容を解説します。
- 「インプット仮説」を提唱したスティーヴン・クラッシェン
- 情意フィルター = 3つの感情の壁
- アウトプットを強制すると、習得が進まなくなることも
「インプット仮説」を提唱したスティーヴン・クラッシェン
スティーヴン・クラッシェンは南カリフォルニア大学の教授で、1970~1980年代に、第二言語習得論に関する多くの仮説を提唱した人物です。第二言語習得論とは、人が外国語を習得するプロセスを研究した学問です。
クラッシェンの理論でもっとも有名なのは、「インプット仮説」。人は、インプットを通じて外国語を習得するという仮説です。クラッシェンによると、「理解可能なインプット」が重要だと言われています。なぜなら、「分からないものは、いくら聞いても分からない」ですし、「分からないものを、いくら読んでも分からない」からです。
具体的には、「i+1」(アイ・プラス・ワン)との概念を提唱しています。現在の言語レベルをi(アイ)としたときに、必要なインプット学習のレベルは「i+1」が最適ということです。つまり、現状よりも少しだけ高いレベルのインプットをすることが重要です。
⇒ご参考:スティーヴン・クラッシェン
⇒第二言語習得におけるインプット仮説とは? クラッシェンの理論と問題点を解説
情意フィルター=3つの感情の壁
しかし、クラッシェンは単にインプットをすればOKと主張したわけではありません。
なぜなら、インプットするときの学習者のメンタルの状態が、外国語の習得に影響するからです。
これが、「情意フィルター仮説」です。
下の図のように、インプットと言語習得の間に「フィルター」があるイメージです。
たとえると、情意フィルターとは、インプットと言語習得をつなぐ「感情の壁」です。つまり、情意フィルターを乗り越えやすいメンタルの状態でないと、せっかくインプットをしても習得につながらないということです。
クラッシェンによると、言語習得に影響する情意フィルター(感情の壁)として、以下の3つの要素が挙げられます。
- モチベーション:高いほど言語習得に有利
- 自信:強いほど言語習得に有利
- 不安:弱いほど言語習得に有利
これだと抽象的ですので、少し具体的に解説します。
モチベーション:高いほど言語習得に有利
「どうしても英語を話せるようになりたい!」という高いモチベーションを持つ人は、学んだ内容の吸収が早いです。一方で、やる気がなくモチベーションの低い人は話を聞いても右から左へ抜けてしまい、定着しづらい。
自信:強いほど言語習得に有利
次に、自信を持っている人は、外国人と話すときに失敗を恐れず堂々と話をするので、多くの学習機会が得られます。
反対に、自信がない人は、「まだ、私の英語は完璧でないから、話さない方がいい.....」と思い、外国人と話すのをためらってしまいます。その結果、せっかく外国人と話すチャンスを逃してしまい、なかなか上達しません。
不安:弱いほど言語習得に有利
また、英会話のグループレッスンなどで、大勢の前で英語を話す場面を想像してみてください。
- こんな下手な発音で英語を話すのは恥ずかしい......
- 間違ったことを言ったら、笑われるのではないか......
などと不安を感じる人もいるかもしれません。
こうなると、英語を覚えるどころではなく、「どうやったら、この場をしのげるだろうか.....」ということしか考えられなくなってしまいます。このように、あまりに不安が強いと、学んだことが身につきづらくなってしまいます。
アウトプットを強制すると、習得が進まなくなることも
このように考えると、英語学習でアウトプットを強制すると、習得が進まなくなる恐れがあることがわかります。特に大人数のグループワークでアウトプットを求めると、自信がない人や不安を感じやすい人は、英語を身につけづらくなってしまいます。
このような人が英会話レッスンを受ける場合は、少人数のグループレッスンやマンツーマンレッスンを選ぶと良いでしょう。
英語学習をするときに自分の「情意フィルター(感情の壁)がどのような状態にあるか」、を意識するとより効果的に学習を進められるようになります。
情意フィルター仮説の限界と批判~不安の感じやすさは遺伝する~
「メンタルの状態が学習効果に影響する」という情意フィルター仮説は、直観的に理解しやすいのですが、多くの批判もあります。
- 遺伝の力~不安の感じやすさと外国語習得~
- 自信があれば良いわけではない~ダニング・クルーガー効果~
- モチベーションより習慣化の方が大事
遺伝の力~不安の感じやすさと外国語習得~
まず、不安の感じやすさには個人差があることが分かっています。
心理学の分野に、人の性格を表す「ビッグ・ファイブ」と呼ばれる指標があります。ビッグ・ファイブは、開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向という5つの性格特性から成ります。
この中の「神経症傾向」が、不安の感じやすさを表します。
⇒ご参考:ビッグ・ファイブ
次の図は、人の性格や能力がどの程度、遺伝で決まるのか?を調査した結果です。この結果から、
この結果から、神経症傾向を含むビッグ・ファイブの特性は、4~5割が遺伝の影響であることがわかります(残りの5~6割は環境)。つまり、生まれつき不安を感じやすい人と、不安を感じづらい人がいるということです。
しかし、生まれつき不安を感じやすいからといって、外国語を習得しづらいわけではありません。
上の図を改めて見てください。「外国語習得」の才能も遺伝で5~6割が決まることがわかっています。
外国語習得の才能と不安の感じやすさに、因果関係はありません。なので、「不安を感じやすい=外国語を習得しづらい」というのは、必ずしも正しくないことがわかります。
さらに、「不安を感じるからこそ、勉強を頑張れる」という人もいます。その場合、不安を感じることで、言語習得が進むようになります。
自信があれば良いわけではない~ダニング・クルーガー効果~
「自信を持っているほど良い」というのも、必ずしも正しくありません。なぜなら、能力の低い人ほど自分のスキルを過大評価して自信を持ちやすいからです。この現象は、心理学の分野で「ダニング・クルーガー効果」と呼ばれます。
⇒ご参考:ダニング・クルーガー効果
言い換えると、「自分の英語力に自信満々な人は、英語力が低くて自分のスキルを正しく認識できていない可能性がある」ということです。
英語学習でもっとも重要なのは、自分の現状レベルを正しく認識し、目標とのギャップを把握することです。
別の言葉で表すと、英語力の「課題発見」です。
正しく実力を把握して課題発見できれば、必要最小限の努力で英語力を伸ばせます。なぜなら、無駄な学習をせずに済むからです。反対に、自分の実力を正しく把握できないと、無駄な勉強をすることになり、遠回りをしてしまいます。
自信を持つことより、正しく自分の英語力を把握できる方が重要です。
モチベーションより習慣化の方が大事
さらに、モチベーションが高い方が良いかというと、そうでもありません。
「え?なんで?」と思うかもしれませんが、モチベーションは長続きしないものだからです。「よし!英語を頑張ろう!」と決意を新たにしてモチベーションを高めても、大抵は数日たつと熱が冷めてしまいます。いわゆる三日坊主ですね。
英語習得を成功させるには、モチベーションよりも学習を習慣化する方が大事です。特にモチベーションが高くなくても、毎日コツコツ続けていれば、英語力は伸びていきます。つまり、英語学習を生活習慣の中に溶け込ませることが大事。
英語学習を習慣化する方法については、以下の記事で解説したので、読んでみてください。
まとめ|一人ひとりに最適化することが重要
情意フィルター仮説は、「メンタルや感情が、英語習得に影響する」というコンセプトを理解するのには非常に有用です。しかし、仮説が提唱されてから50年近く経つので、多くの批判や矛盾が出てきています。
英語習得を成功させるには、一人ひとりの性格やメンタルの状態に合わせて学習を最適化することが重要です。英語スクールのカリキュラムなどのように、画一的な教え方ですと一人ひとりにパーソナライズすることが困難となってしまいます。
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参考文献
Krashen, Stephen D. (1981). Second Language Acquisition and Second Language Learning
Krashen, Stephen D. (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition