クラッシェンのインプット仮説とは?第二言語習得の理論と問題点を簡単に解説

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第二言語習得における「インプット仮説」を聞いたことがありますか?

1970~1980年に第二言語習得論の大家スティーヴン・クラッシェンが提唱した仮説ですが、現在でも有用な理論です。日本人の英語学習方法を見直すのにも役に立ちます。

 

この記事では、以下の内容を解説します。

 

この記事でわかること
  • どのようなインプットが必要なのか?
  • なぜインプットが英語習得に有用なのか?
  • クラッシェンのインプット仮説の問題点

 

インプット仮説とは?第二言語習得論におけるクラッシェンの理論

インプット仮説とは、1970~80年代に南カリフォルニア大学の名誉教授スティーブン・クラッシェンが提唱した第二言語習得に関する理論です。

⇒ご参考:スティーヴン・クラッシェン

 

    インプットだけで言語習得できる?

    インプット仮説は、インプットのみで言語を習得できるというかなり極端な理論です。

    インプットとは読むこと、聞くこと。

    つまり話したり書いたりするアウトプットは言語習得には不要で、読んだり聞いいたりするだけで言語をマスターできるということです。

     

    i+1(アイ・プラス・ワン)の原則

    では、どんなことをインプットしたらよいのでしょうか?

    クラッシェンは「理解可能なインプット」が重要だと言います。

     

    その理由は以下の通り。

    • 分からないもの、いくら聞いても分からない
    • 分からないものを、いくら読んでも分からない

    さらに、クラッシェンは”i+1(アイ・プラス・ワン)”という概念を提唱しています。現在の言語レベルを「i」としたとき、必要な学習教材のレベルは「i+1」が最適ということです。

    つまり、現状よりも少しだけ上のレベルの教材をインプットすることが大切です。

     

    インプットの重要性〜なぜ言語習得できるのか?〜

    そもそも、なぜインプットで言語習得ができるのでしょうか?

    それは、大量のインプット情報により文法や単語などの言語のパターンがわかり、予測できるようになるからです。

     

    たとえば、「昨日、新幹線で大阪から東京まで●●。」という日本語を聞いたとき。●●に入るのは「来た」とか「移動した」などと予測できるはずです。反対に、「つながった」とか「跳ねた」などの動詞は思い浮かびません。

     

    英語でも同様です。

    “I gave him ▲▲.” という文章があったとき、ある程度英語ができる人は▲▲にどんな単語が入るか、予測ができます。

     

    このように、言語を習得した人は無意識に予測能力を使っています。「ことばの感覚」と呼ばれるものと似ています。そして、この予測能力は大量のインプットを通じて身につきます。

    だから、インプット学習で言語習得が進むのです。

     

    クラッシェンのインプット仮説の根拠となる理由

    クラッシェンのインプット仮説には、どのような根拠があるのでしょうか?

     

     

    沈黙期の子供

    多くの赤ちゃんは母語を習得するとき、1語、2語、3語と少しずつ話す文章が長くなっていくのが通常です。

    しかし、なかなかしゃべらないため両親が心配していると、あるとき突然長文を話しはじめる子供もいます

     

    また、親の転勤で一緒に海外に行った子供は、最初はずっと黙っていることが多い。そして、あるとき突然話始めるケースがあります。この黙っている期間は「沈黙期」と呼ばれます。

    沈黙期の間は自発的にはほとんど会話や応答をせず、ひたすらインプットをしています。沈黙期を超えると、突然話せるようになるというわけです。

     

    このようなケースを考えると、言語習得そのものにとって話すことは必須要件ではなく、インプットが言語習得の本質と考えられます。

     

    理解優先の教授法の有用性

    2つ目の根拠は「理解優先の教授法(Comprehensive approach)」の有用性です。

     

    TPR(Total Physical Response)

    TPRは日本語では「全身反応教授法」と呼ばれる、赤ちゃんが母国語を身につける過程を外国語学習に応用した教授法です。

    しゃべらずに「動作をしながら外国語を習得していく」のが特徴です。

     

    TPRの教授法では、先生が生徒に動作の命令をし、生徒はその動作をするという形式で授業が進められます。

    たとえば、以下のような動作の命令です。

    “Sit down.” (座ってください)
    “Stand up.” (立ってください)
    “Walk to the whiteboard.” (ホワイトボードの方に歩いてください)

    TPRの授業では7割がリスニング、2割がスピーキング、1割が読み書きに充てられます。

    TPRで習った生徒は通常のレッスンを受けた生徒よりも外国語能力が伸びやすいことがわかっています。

     

    リスニング能力は3倍のスピードで伸びます。さらに1割しかやっていないライティングやリーディングも、通常のレッスンを受けた生徒と遜色ないレベルとの結果が出ています。

    つまりリスニングのインプットにより、聞く能力だけでなく書いたり読んだりする力も身についたということです。

     

    イマ―ジョン教育

    また、イマージョン教育も外国語習得に有用とわかっています。イマージョン教育とは、外国語「を」習うのではなく外国語「で」他の教科を習うことです。

    たとえば数学や物理や歴史を英語で習う、などです。

    イマージョン教育により外国語能力が伸びやすいと言われています。

     

    これらの根拠が、クラッシェンはインプット仮説の元になっています。

     

    インプット仮説3つのの問題点

    ここまでインプット仮説と根拠について説明してきましたが、インプット仮説には問題点もあります。

    いつまで待っても話さない子供がいる

    クラッシェンのインプット仮説に基づき、タイで英語を教えたケーススタディがあります。

    クラッシェンによれば、理解可能なインプットを与え続けていれば自然に話すようになるはずですが、いくら待っても生徒は話し始めずいつまでも聞いているだけだったということです。

    つまり、必ずしもインプットのみで話せるようになるわけではない、ということが示されたわけです。

     

    テレビを見て育った子供は文法がおかしい

    また、テレビを見て育った子供の言語能力を調べたケーススタディもあります。

    両親がことばを話せなかったため、主にテレビを見て言葉を習得したその子は、テレビや人の言うことは理解できるが、しゃべらせると文法がかなりおかしかった、と言われています。

    つまり、聞いているだけでは言語を習得できないことを示唆しています。

     

    受容バイリンガルの問題

    さらに、「受容バイリンガル」のケースもインプット仮説の反証となっています。

    受容バイリンガルとは、第二言語を「聞いて理解できるが、話せない」というバイリンガルのことです。アメリカへの移民の子供に多く見られます。

     

    たとえば両親が日本人で子供を連れて移住した場合です。子供は英語を話せるようになります。一方で日本語は聞いてわかるけれど話せない、というケースがあります。

    親が日本語で話しかけると、子供が英語で答えるというケースもあるそうです。

     

    なぜこのようなことが起こるのか?

    子供にとっては友人が話す英語の重要性が高いわけです。重要な英語は自然と習得していきます。

    一方、親と話すためだけに必要な日本語はそれほど重要ではない。日本語をアウトプットする必要性が少ないため、話せなくなってしまうというわけです。

     

    インプット仮説を超えて~大量のインプットとアウトプット~

    ここまで、「インプットだけで言語を習得できる」という話と、「インプットだけでは言語を習得できない」という矛盾する話を紹介してきました。

    結局のところ、どうしたらよいのでしょうか?

    答えは「大量のインプットと少量のアウトプット」で学習することです。

     

    インプットはもちろん重要

    もちろん、インプットは重要です。クラッシェン以降も、多くの研究者が第二言語習得論を研究してきましたが、インプットの重要性に反対する人はほとんどいません。

     

    アウトプットする必要がある環境も大事

    一方で、アウトプットする必要性を感じないと言語習得に結びつきません

    これはテレビのみでインプットした子供のケースや、受容バイリンガルのケースが当てはまります。

     

    つまり、少しでよいのでアウトプットをする機会を設けることが必要ということです。

    たとえば、会社の会議で英語での発言が求められる環境であったり、レッスンで先生から当てられ英語を話さなければならない環境などです。

     

    このようなアウトプットの場として英会話スクールや、オンライン英会話を活用することもできます。

    しかし、気を付けなければならないのは、少量のアウトプットを活かすためには、ベースとして大量のインプットが必要だということです。

     

    まとめ|英語習得にインプットは大切

    クラッシェンのインプット仮説は40年前に提唱されたものですが、いまでも第二言語習得論の基礎となっています。もちろん、インプットのみで言語を習得できるわけではありませんが、インプットの重要性は改めて認識しておく必要があります。

     

    特に英会話スクールに通う場合、インプットが不足しがちです。

    以前、私は英会話スクールに通っていたことがあります。およそ1年間くらい通い続けました。

    自分では「毎週、英会話レッスンを受けて頑張ってるな〜」と思っていました。ですが今思い返すとインプットがまったく足りなかったんですよね。

    結果的に1年間英会話スクールに通っても、ほとんど英語力を伸ばすことができませんでした。

     

    あなたも英語学習をする場合は、大量のインプット学習を確保するように勉強内容を見直すことをおすすめします。

    最近になり「大量のインプットと少量のアウトプット」のバランスを重視するスクールが出てきています。
    英語コーチングスクールと呼ばれるスクールで、第二言語習得論をベースにしているため受講生は短期間で英語力を飛躍的に伸ばしています。
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    など受講生は信じられないような成果を挙げています。

     

    もし第二言語習得論を実践して、効率的に英語力を伸ばしたい場合は英語コーチングスクールを試してみてください。大量のインプットと少量のアウトプットのバランスで効率良く英語力を伸ばすように、オリジナルカリキュラムを作成してもらえます。

    以下の記事には、筆者が実際に体験し厳選した英語コーチングスクールをまとめています。気になる方は読んでみてください。

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    参考文献

    Krashen, Stephen D. (1981). Second Language Acquisition and Second Language Learning

    Krashen, Stephen D. (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition

    外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か (白井恭弘 著)

    外国語を話せるようになるしくみ (門田修平 著)

    英語教師のための第二言語習得論入門(白井恭弘 著)

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