- 日本人の英語力が低いのは『アウトプット」が足りないからだ
- いやいや、聞くだけでも英語力が伸びる
第二言語習得論と呼ばれる、言語を習得するプロセスの研究分野でも「インプット vs アウトプット」の論争がありました。
「インプットだけで第二言語を習得できる」と主張する「インプット仮説」については、以下の記事にまとめました。
⇨クラッシェンのインプット仮説とは?第二言語習得の理論と問題点を解説
この記事では、「アウトプット仮説」について詳しく説明し、日本人の英語学習者にどのように役立つかを解説します。
先に結論を言ってしまうと次の通りです。
- 大量のインプットが第二言語習得の基本。アウトプットは「インプットの効率を高める」効果がある。
- アウトプットするときに「自分は思うように英語が話せない」と気づける。
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第二言語習得におけるアウトプット仮説とは?~スウェインの理論~
言語習得におけるアウトプットの必要性
アウトプット仮説とは、第二言語習得に「話す」「書く」などのアウトプットが重要であると説く仮説です。一見すると当たり前に思える仮説が、なぜ提唱されたのでしょうか?
それは、当時の学会で主流だった「インプット仮説」を修正するためです。1970~80年代に、南カリフォルニア大学教授のスティーブン・クラッシェンが提唱した「インプット仮説」は、「読む」「聞く」などのインプット“だけ”で、言語習得ができるとの仮説でした。
より具体的には、「理解可能なインプット(現状レベルより少し高い教材のインプット)」を続けることで、自然と話せたり、書けるようになったりするということです。
インプット仮説には、ある程度のエビデンスがあり、学会でも主流の一つになりました。
それに対し、アウトプット仮説は「インプットだけでは言語を習得できず、アウトプットも必要」と主張しました。
注意が必要なのは、「アウトプットのみで言語習得できる」とは言っていないことです。インプットはもちろん重要ですが、アウトプット“も”必要との位置づけです。
メリル・スウェインの体験談がアウトプット仮説のベース
アウトプット仮説はトロント大学のメリル・スウェイン名誉教授が提唱した理論です。この理論は、スウェインがカナダの英語・フランス語のバイリンガルプログラムを行った経験がベースになっています。
カナダは英語とフランス語の2言語が公用語です。そのため、子供のころから英語ネイティブにフランス語を教えたり、フランス語ネイティブに英語を教えたりしています。
スウェインは英語が母語の子供に対するフランス語の「イマージョン・プログラム」の生徒を観察しました。
イマージョン・プログラムとは、理科や数学などの授業をフランス語で行う教育です。イマージョン・プログラムでは、生徒は「理解可能なインプット」を大量に浴びることになります。一方、フランス語をアウトプットする機会は、ほとんどありませんでした。
その結果、子供たちはフランス語を習得できたのでしょうか?
スウェインの研究によると、子供たちはリスニングやリーディングはできるようになりました。フランス語が母語の人たちと同レベルまで意味が分かります。
しかし、話す言葉の正確性に欠けることがわかりました。具体的には、正確に文法を操作するスキルが身につかなかった。
つまり、インプットだけでは、第二言語を完璧に習得できなかったというわけです。
この結果から、スウェインは「第二言語の習得には、アウトプット“も”必要」と結論づけました。
第二言語習得におけるアウトプットの3つの効果
では、アウトプットはなぜ第二言語習得に効果があるのでしょうか?
スウェインは次の3つの効果があると主張しました。
気づき機能(Noticing function)
実際に英語を話そうとしたときに、「あれ、この言葉は何と言えばよいのだったかな?」と感じた経験がある人は多いかと思います。
似た例としては、「自分では理解していたつもりなのに、実際のテストを受けると思ったより答えられない」ということはよくあります。
このように、アウトプットしようとすると自分のいまの英語レベルと、目指すべき英語力のギャップに気づきます。
これが、アウトプットの「気づき機能」です。
自分の英語力(第二言語の知識)が十分でない、と自覚する効果です。
仮説検証機能(Hypothesis testing function)
仮説検証機能とは、実際に英語を話してみて相手の反応を見て、自分の英語が通じたか通じていないかを見ることです。
相手が理解していないようであれば、自分の英語の伝え方が適切ではないとわかります。相手の反応が、自分の英語に対するフィードバックになるとの考え方です。
ただし、相手の英語力が自分より高くないと、フィードバックの意味はありません。なぜなら、単に相手の英語力が低いせいで内容を理解できない可能性があるからです。
メタ言語機能(Metalinguistic function)
メタ言語機能とは、自分や他者が話した内容に対して振り返ることです。
たとえば、「さっきの発言は、三単現の”s”が抜けしまったな」と振り返る、などです。
このように振り返り、内省することで言語に対する意識が芽生えます。
つまりアウトプットすることで、インプット時には目が向かなかった細かな文法ルールに意識が向くようになるということ。他人に話した内容を振り返ったり、他者から指摘を受けたりすることで、学んだ内容が定着するとの考え方です。
インプット仮説とアウトプット仮説の整合性
クラッシェンの「インプット仮説」と、スウェインの「アウトプット仮説」は矛盾しているように思えます。
しかし、スウェインもインプットが第二言語習得に重要であることは認めています。ただ、インプット「だけ」では言語は身につかないと主張しています。
実際、「アウトプットだけで第二言語を習得できた」という研究結果はありません。なぜなら、話したり書いたりするアウトプットは、既に頭の中にある知識を使うからです。インプットがなければアウトプットできないということです。
両者を合わせると、第二言語を身につけるためには「大量のインプットと少量のアウトプット」が重要との結論になります。
英語学習する日本人にとってのアウトプット仮説の意味
英語学習をしている日本人にとって「アウトプット仮説」はどのような意味があるのでしょうか?
大量のインプットが大前提|アウトプットの目的は、インプットの効率を上げるため
くり返しになりますが、英語習得には大量の「理解可能なインプット」が大前提です。クラッシェンの主張のように、いまのレベルを”i”としたとき、”i+1”レベルのインプットが英語力アップに効果的です。つまり、ちょっとだけ背伸びをしたレベルです。
目安としては、インプット:アウトプットの比率は7:3~8:2程度が英語力アップに効果的です。
アウトプットによる「気づき機能」を活かす
一方で、アウトプットの「気づき機能」を活かすことが重要です。「こういう英語表現が使えないのか」と気づくことで、インプット学習の効率が高まります。
なぜなら、人は意識を向けたことを覚えやすくなるからです。
そのため、英語を話そうとして「英語が口から出てこない!」という体験が、次のインプット学習の効率を高めます。
大量のインプット学習とあわせて、英会話の練習をすると効率的に英語力を伸ばしやすくなる、ということです。
まとめ|インプット学習を中心に、アウトプットも取り入れよう
この記事ではメリル・スウェインの「アウトプット仮説」の内容と、日本人の英語学習者にどう役立つか、を解説してきました。
英語学習のベースはインプットですが、アウトプットを取り入れるとインプットの効率を高められます。
ぜひ、あなたの英語学習にも取り入れてみてくださいね。
第二言語習得論を含む、科学的な学習法については、以下の記事にまとめました。あなたの英語学習効率を高めるヒントが見つかるはずです。興味がある方は参考にしてみてください。