日本では「進化論」を信じる人が大半です。チャールズ・ダーウィンが提唱した、生物進化の理論で、学校教育でも教えられています。
しかし、調査結果によると現在でもアメリカ人の4割が進化論を否定しています。
4割という数字は、先進諸国の中で群を抜いて高い数字です。
なぜなのでしょうか?
この記事では、3つの観点からアメリカ人が進化論を否定する理由を探ります。
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アメリカでは進化論を信じない人が4割以上
進化論 対 創造論
チャールズ・ダーウィンの進化論
進化論はチャールズ・ダーウィンが1859年に「種の起源」で提唱した説で、生物が「突然変異」と「自然選択」により進化したという理論です。
進化論にしたがえば、人間はサルから進化したことになります。
⇒ご参考:進化論
旧約聖書の創造論
創造論とは、旧約聖書の「創世記」に書かれたとおり、宇宙や生命が生まれたとする教えです。
創世記によれば、神は自分に似せたアダムを創り、アダムのあばら骨からエバを作り、エデンの園に住まわせたと言われています。
つまり、神が人間を作ったという立場です。
⇒ご参考:創造論
このように進化論と創造論の考え方は対立しています。
科学が広まった現代では、進化論が広く受け入れられていますが、アメリカでは事情が異なります。
世界各国の調査~進化論はどの程度受け入れられているか?~
2006年に、世界各国で進化論がどの程度受け入れられているかの調査結果が、米サイエンス誌に掲載されました。
フランス、日本、イギリスなど先進諸国では、約8割が進化論を信じていることがわかります。
一方、アメリカは進化論を信じる人は約4割で、先進諸国において群を抜いて低い割合です。
引用:
Jon D. Miller, Eugenie C., Shinji Okamoto, “Scott Public Acceptance of Evolution,” Science, vol. 313, 2006 Aug 11.
アメリカの調査
次に、2019年に行われた米Gallupの調査を見てみましょう。
この調査によると、以下の通りです。
- 創造論を信じている人 40%
- 神の助けで、人は進化した 33%
- 神の助けなしに、人は進化した 22%
つまり、アメリカ人の4割は創造論を信じており、進化論を否定しています。
引用:40%のアメリカ人が「創造論」を信じる -米Gallup社2019年調査-
なぜ、アメリカでは進化論を信じない人が4割以上もいるのか?
進化論を信じないアメリカ人が4割もいる理由は以下の3つと言われています。
- キリスト教原理主義の影響
- 進化論 vs 創造論が政治的スタンスに影響している
- 学校で進化論が教えられない
キリスト教原理主義の影響
先ほどのGallup社の調査では、宗教ごとに回答を分類しています。
その結果を見ると、プロテスタントに「神が人を創った」という創造論を信じる人が多いことがわかります。
なぜなら、プロテスタントは「聖書」を信じる宗派だからです。そして、アメリカ人の約半分がプロテスタントです。
アメリカはキリスト教徒によって作られた国
1620年12月、イギリス人が「メイフラワー号」という船でアメリカの東海岸にたどり着きました。イギリス国教(キリスト教の一派)に不満を持ち、宗教的な自由を求めたもので、「ピューリタン(清教徒)」とも呼ばれます。プロテスタントの一派です。
彼らはアメリカへの初期の植民者で、ピルグリムファーザーズとも呼ばれます。
つまり、アメリカはプロテスタントによって作られました。
キリスト教原理主義の影響
アメリカ南部の保守的な地域を中心に、「福音主義者(エヴァンジェリカル)」と呼ばれるキリスト教徒が多く住んでいます。この人達は、聖書に書かれていることは一字一句真実であると考えます。このような考え方を、「キリスト教原理主義」とも呼びます。
聖書の記載を信じると、どうしても進化論を受け容れられなくなります。なぜなら、聖書には「神が人を創った」と書かれているからです。
先ほど紹介したサイエンス誌の論文にも、キリスト教原理主義の人は進化論を否定する傾向があることが示されています。また、ヨーロッパ諸国と比べ、アメリカにはキリスト教原理主義者が2倍程度いるとも言われています。
Jon D. Miller, Eugenie C., Shinji Okamoto, “Scott Public Acceptance of Evolution,” Science, vol. 313, 2006 Aug 11.
このようにキリスト教原理主義が、進化論への態度に影響を与えています。
進化論 vs 創造論が政治に影響している
また、「進化論を信じるか」「創造論を信じるか」が政治にも影響しています。
アメリカは共和党と民主党の二大政党制です。共和党は保守派で、キリスト教原理主義のサポートを受けています。一方、民主党はリベラル派です。
20世紀後半には、共和党と民主党は人工中絶、同性婚などのトピックをめぐり激しい論争を交わしてきました。なぜなら、キリスト教の教えによれば人工中絶や同性婚は許されないからです。
共和党は人工中絶や同性婚に反対の立場、民主党は賛成の立場です。
同様に進化論も共和党と民主党の論争の的になってきました。共和党は反対、民主党は賛成です。
その結果、共和党をサポートするアメリカ中南部の州に、進化論を信じない人が多く存在しています。
ヨーロッパや日本では、このように進化論が政治論争の的になることはありません。
学校で進化論が教えられない
進化論が政治論争の的になった結果、学校で進化論が教えられないケースがあります。
日本と違い、アメリカでは教科書検定制度が存在しません。そのため、教科書の内容は多様性に富みます。つまり、進化論を取り扱わない教科書も存在するということです。
基礎教育をつかさどる学校区の長を選ぶ選挙で「私が当選すれば、進化論について記した教科書は使わない」とか、「『進化論は一つの仮説にすぎず、その正しさが科学的に証明されているわけではない』」と記したパンフレットを配布する」などの公約が掲げられることもあります。
また、進化論について書かれた教科書を利用する地域で、在宅教育を認させる運動をする人々もいます。なぜなら、両親が進化論反対派の場合、学校の教育方針に反対だからです。
日本では科学教育と宗教は別物と捉えられていますが、アメリカはそうではありません。
裁判にもなったアメリカの進化論論争
実は進化論は裁判にもなっています。有名なのは、1925年のスコープス裁判です。
スコープス裁判(モンキー裁判)
1925年7月、中南部テネシー州の小さな町デイトンの高校教師ジョン・T・スコープスが、進化論を教えたために、裁判にかけられました。
テネシー州では、1925年の3月に「進化論禁止法」を制定していました。公立学校で進化論を教えることを禁止する法律です。
当時、キリスト教原理主義者が多い南部の13州で、同様の法律が成立していました。
進化論禁止法に違反したかどで、スコープスは訴えられたのです。
進化論裁判はアメリカ中の注目を集めた
このスコープス裁判は、別名「モンキー裁判」とも呼ばれ、大きな注目を集めラジオでも報道されました。
「人間がサル(モンキー)から進化したなどという、荒唐無稽な理論を教えるのはけしからん!」との声が上がっていたらからです。
実はこの裁判は、被告のスコープス側が仕掛けたものでした。
進化論禁止法に起こった人たちが、この法律の愚かしさをアピールするため、スコープスに進化論を教えるように頼みました。スコープスも、この考えに納得し、あえて逮捕されたというわけです。
辣腕(らつわん)弁護士 vs 元国務長官の大物検事
また、この裁判が注目を集めたのは弁護士と検察官が著名人だったからです。
クラレンス・ダロウという辣腕弁護士と、元国務長官の検事ウィリアムズ・ジェニング・ブライアンの対決となりました。
検事のブライアンはキリスト教「保守」で、聖書は文字通り正しいと考える立場でした。弁護士ダロウは、聖書の矛盾を突く弁論を展開します。
たとえば、以下のような論争です。
旧約聖書の「創世記」には、神が太陽と月を想像したのは4日目と書かれている。しかし、その前に「夕となり朝となった」との記述がある。
太陽も月もない段階で、どうして夕や朝がわかったのか?
これらの質問に、検事のブライアンは答えられず、論争は弁護士ダロウ優勢に進みました。
進化論を教えた高校教師は有罪判決に
しかし判決の結果、スコープスは罰金100ドルの有罪となりました。
この裁判の後、多くの教科書から進化論の記述がなくなりました。つまり、学校教育で進化論が扱われなくなったということです。
テネシー州が進化論基本法を廃止したのは、1967年になってからのことです。
最終的に「創造論(創世記に基づく人間の創造)」を公立学校で教えることが禁じられたのは、1987年になってからのことです。
キリスト教原理主義者の抵抗のため、進化論をアメリカの学校で教えられるようになるまでに、長い時間がかかりました。
ただし、憲法や法律で進化論を教えることが認められても、実際の学校現場ではそうもいきません。
なぜなら、キリスト教原理主義の父母から激しい抵抗を受けるからです。現在でも、生物学の授業で進化論に触れない教師も多いと言われています。
まとめ|アメリカでは進化論は宗教的、政治的な問題
現在でも、アメリカでは進化論を信じない人が40%もいます。
歴史的に見ても、進化論は宗教問題、政治問題として扱われ、裁判沙汰にもなりました。
日本人からすると不思議だと感じますが、科学大国に見えるアメリカにおいて、進化論はかなり微妙な問題をはらんでいます。
その結果、いまだに学校教育で進化論が教えられないケースがあります。
他にもアメリカは独特の歴史と文化を持っています。
たとえば、1920年代にアメリカでは「禁酒法」と呼ばれる法律が存在しました。アルコールの製造・販売を禁止する法律です。以下の記事では、なぜアメリカで禁酒法が制定され、どのような経緯をたどったのかを解説しました。
また、アメリカは移民大国です。「人種のるつぼ」や「人種のサラダボウル」と呼ばれることもあります。「人種のるつぼ」や「人種のサラダボウル」の意味合いや、歴史的背景について、以下の記事で解説しています。
異文化理解の本質
この記事で解説したように、私たちが身近に感じるアメリカでさえ、日本とはかなり大きな文化のギャップがあります。
今後、グローバル化が進む中、「異文化理解力(異文化を理解する力)」は非常に重要になっていきます。
しかし、異文化理解力は海外に出たり、外国人と関わるだけでは身につきません。なぜなら、これだけでは「異文化理解の本質」が分からないから。
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参考文献
Jon D. Miller, Eugenie C., Shinji Okamoto, “Scott Public Acceptance of Evolution,” Science, vol. 313, 2006 Aug 11.
40%のアメリカ人が「創造論」を信じる -米Gallup社2019年調査-
書籍
シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理 (NHK出版新書)