社会人が英語を身につけるのに、1000時間の英語学習が必要と言われることがあります。
私がビジネス英語コーチとしてサポートする中、次のように聞かれることがあります。
- 本当にビジネス英語を身につけるのに、どのくらいの勉強時間が必要なのでしょうか?
- 英語学習をコツコツ続けるのが良いのですよね?
このような疑問を持つ方に向けて、この記事では以下について説明します。
- 英語習得に1000時間必要と言われる根拠と問題点
- コツコツより短期集中がオススメな理由
英語習得の1000時間仮説を検証〜社会人に必要な勉強時間は?〜
英語習得に時間がかかる理由~言語間の距離~
日本人が仕事で英語を使えるレベルになるには1000時間の学習時間が必要と言われることがあります。
以下で、1000時間が必要とされる根拠を説明します。
根拠となっている元データは、アメリカ人が日本語を習得するのに必要な時間です。
アメリカの外交官を育成するFSI(Foreign Service Institute)という機関が過去70年間の教育経験を元に、アメリカ人が外国語を習得する難易度と必要となる学習時間をまとめています。
カテゴリー | 言語 | 習得にかかる時間 |
カテゴリーⅠ | イタリア語、デンマーク語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、など | 600~700時間 |
カテゴリーⅡ | ドイツ語、インドネシア語、スワヒリ語、マレーシア語、など | 900時間 |
カテゴリーⅢ | クロアチア語、チェコ語、フィンランド語*、ロシア語、ベトナム語* など | 1100時間 |
カテゴリーⅣ | アラビア語、中国語、韓国語、日本語* | 2200時間 |
*マークは同じカテゴリーの中で、他の言語より習得が難しい。
このように、日本語は英語ネイティブにとって一番難しい言語とされています。
ちなみに、カテゴリーⅡのドイツのTOEICの国別スコアを見ると、世界で2位の好成績を収めています。このことから、英語ネイティブ→外国語習得の難易度と、上述した外国語ネイティブ→英語習得の難易度にはある程度相関があると考えられます。
そして、日本人が英語を習得するのはそもそも難易度が高く時間もかかると予想できます。アメリカ人が日本語を習得するのに必要とされている2200時間が一つの目安になります。
学校教育での英語勉強時間は意外と少ない
日本人は中学、高校の6年間に英語を学習しています。実際には、どのくらいの時間学習しているのでしょうか。
中学校:50分授業を週4回×1年35週×3年=350時間
高校: 50分授業を週5回×1年35週×3年=437時間
合計: 787時間
自習時間を含めても1200時間程度と推定されます。
そのため、2200時間―1200時間=1000時間の学習が必要と言われています。
要点をまとめると、以下のロジックです。
- アメリカ人が日本語を習得するのに2200時間程度必要
- 同様に、日本人が英語を習得するには2200時間程度必要だろう
- 一方、日本人の中学、高校時代の英語学習時間は1200時間程度
- したがって、日本人が英語を習得するには1000時間(2200時間ー1200時間)の学習が必要
いろいろと推定が入っていますが、一つの目安になります。
1000時間仮説の問題点
続いて1000時間仮設の問題点を解説します。
FSI調査には自習時間が抜けている
ただし上記の1000時間仮説には問題点があります。
それはアメリカFSI調査の「学習時間」は授業を受ける時間で、「自習時間」が抜けているからです。
Their schedule calls for 25 hours of class per week with three or four hours per day of directed self-study.
(彼らのスケジュールは、週25時間の授業と毎日3~4時間の自習が必要です。)
つまりアメリカ外交官が日本語を習得するには、本当は以下の時間がかかります。
授業時間:25時間×88週間=2,200時間
自習時間:3時間×88週間(616日)=1848時間
合計:4048時間
仮に学生時代に1200時間勉強したとすると、4048時間ー1200時間=2848時間の学習が必要となります。
個人差や学習の質の観点
また、個人の資質によっても必要な学習時間が変わってきます。
語学の習得する能力の5割は遺伝で決まっています。言い換えると、外国語が得意な人は短時間で英語を習得しやすく、苦手な人は習得に長い時間がかかるということ。
アメリカFSIの調査は外交官を対象にしています。外交官になる人は生まれつき語学が得意な可能性が高いですよね。なので、一般的な人は外国語習得に2,200時間以上が必要になる可能性が高いと考えられます。
さらに、学習の質によっても英語習得に必要な勉強時間が変わります。効率の良い学習をすれば習得に必要な時間を短縮できます。反対に、効率が悪い勉強を続けても、一向に英語が身につきません。
英語習得には3000時間や5000時間必要との説も
実際、学者の中でも様々な説が提唱されていて、英語習得に何時間必要かはハッキリしていません。
英語を身につけるのに必要な学習量には諸説ある。 目標とするレベルによっても大きく異なるが,1320 時間、4400 時間、5000 時間など、平均すると 2000~3000 時間という時間になる。
5000時間の根拠になっているのは、カナダでのフランス語教育の事例です。
幼稚園からフランス語漬けの教育を受けると、5000時間の学習でネイティブレベルのフランス語を身につけられるとの結果。
出典:母語以外の言葉を子どもが学ぶ意義ーバイリンガル教育からの視点ー
1000時間は最低ラインと考える
様々な調査結果を踏まえると、社会人が英語を習得するための学習時間として1000時間は最低ラインだと考えられます。
では1000時間の勉強時間を確保するには、どのくらいの期間が必要になるのでしょうか?
1日の学習時間 | 1000時間学習に必要な期間 |
10分 | 16年5ヶ月 |
30分 | 5年6ヶ月 |
1時間 | 2年8ヶ月 |
2時間 | 1年4ヶ月 |
3時間 | 1年 |
かなりの時間がかかりますよね。
「そんなに続けられない」と感じる方も多いのではないでしょうか?
もちろん、学習の量は大切ですが、学習の質や戦略を工夫することも重要です。
ビジネス英語習得には2~3か月の短期集中がオススメ
実際に英語学習をするときには、毎日コツコツ10分を続けるより、2~3か月の短期集中を繰り返すのがオススメです。
理由は3つあります。
コツコツ短時間の勉強を続けても英語習得しづらい
英語に限らず、毎日10分でもコツコツ学習を継続することが推奨されることがあります。しかし英語学習に関しては、毎日10分を継続する学習法では結果を出しづらいです。
理由は3つあります。
累積時間を稼ぐのに膨大な期間が必要
1つ目の理由は、毎日10分の学習だと、累積時間を稼ぐのに、膨大な期間が必要だからです。
たとえば、毎日10分の学習を1年続けても、10分×365日=3650分(~60時間)です。
毎日10分の学習で、1000時間を稼ごうとすると17年近くかかってしまいます。
成長実感を感じづらく、やる気が続かない
また、1日10分の学習では、英語力の変化を実感できるまでに時間がかかります。
人にもよりますが、1年近く継続しないと目に見える変化は出てこないでしょう。
つまり、学習を続けていても成長実感が得られません。
その結果、学習に対するやる気が落ちて、学習を継続できなくなってしまうことが多いです。
記憶のメカニズムから考えても1日10分の学習は非効率
3つ目の理由は、人の記憶のメカニズムに関係します。
人は覚えたことをすぐに忘れてしまいます。
人の記憶の定着率をモデル化した「エビングハウスの忘却曲線」が知られています。このモデルによると、せっかく覚えても1日たつと7割近くを忘れてしまいます。
また、記憶を定着させるためには、繰り返し復習することが有効だと知られています。たとえば、英単語を覚えようとするとき、毎日10分の学習では復習だけで終わってしまい、なかなか学習を進めることができません。
そのため、毎日10分をコツコツ続けても学習内容が定着しないのです。
2~3か月の集中的な学習で英語力は目に見えて伸びる
「短期」とはいっても2~3か月、毎日2~3時間継続することが大事です。なぜなら、データで効果が示されているからです。
たとえば留学生を対象に英語力の伸びを調査した結果があります。これらの結果によると、2~3週間の留学では英語力はほとんど向上せず、2~3か月継続すると有意に英語力が向上することがわかっています。
実際、私もプログリットという英語コーチングスクールで、2か月の間2~3時間の学習を続けたことで、英会話力が飛躍的に向上しました。
2〜3ヶ月間の集中した学習が、英語力アップの変化を感じられる最低ラインです。
⇒ご参考:プログリットの評判と口コミ|2ヵ月でビジネス英語力が伸びた体験談と感想
人生には、英語以外にも優先事項がある
たしかに毎日3時間の学習を1年続ければ1000時間をあてることができ、英語力は伸びることでしょう。しかし、現実的には仕事をしながら1年間ずっと3時間を英語に費やすのは大変なことです。
なぜなら、人生には英語以外にも優先事項があるからです。
たとえば、読書をしたり、趣味やスポーツをしたり、家族との時間を過ごしたりすることも、人生を有意義にします。あるいは、仕事に活かす専門力を磨くことも大事かもしれません。
実際、私も2か月間2~3時間の英語学習を続けたあとは、さすがに疲れました。
その後は、小説をむさぼるように読みましたし、他に興味のあることを学び始めました。
「この一年は、仕事以外を英語に費やす!」という意気込みがあったり、英語が趣味のようなものであったりするなら構いません。しかし、他にも大事にしたいことがあるのならば、人生の中で2~3か月を英語に集中してあてる時期を複数回つくる方が効果的です。
まとめ|社会人が英語習得するには最低1000時間が必要
この記事のポイントをまとめておきます。
- 日本人が英語を習得するのは簡単ではない。なぜなら言語間の距離が遠いから
- 目安となる学習時間の最低ラインは1000時間。学校教育では意外と勉強時間が短いため
- 毎日コツコツ10分勉強するより、毎日2~3時間の学習を2~3ヵ月続けるのがオススメ
では、効率的に英語を学ぶにはどうしたらよいか? を知りたい人は以下の記事を参考にしてみて下さい。
ご参考:英語勉強法の効率が変わる5つのポイント|科学的な英語上達法
独学で英語学習を継続する自信がない人には、短期集中のスクールがオススメ
独学で1,000時間の英語勉強するのは簡単ではありません。モチベーションを維持するのが難しいからです。
- 独学で英語学習を続けるのが難しい
- 過去に挫折したことがある
という場合はスクールを活用するのもアリです。
スクールには、短期集中で英語力を伸ばすノウハウがあります。多くの受講生が2〜3ヶ月の短期間で飛躍的に英語力を伸ばした実績もあります。
- 3ヶ月でTOEICスコアを300点アップ
- 3ヶ月でビジネス英会話をマスター
このような成果を挙げている受講生は一人や二人ではありません。
以下の記事には筆者が実際に体験したおすすめの短期集中型のスクールを紹介しています。各スクールとも、無料体験を実施しています。
「これから英語を頑張ろうかな......」という場合は、ぜひ読んでみてください。