2020年3月に株式会社を立ち上げた佐々木章太CEO。トラックドライバー向けのVR安全教育システム事業を運営しています。これまでの常識をくつがえすサービスで、業界の教育システムに変革を起こしています。
今回、筆者は佐々木さんにインタビューする機会をいただきました。
起業にいたるストーリー、佐々木さんが大事にしている価値観、行動の原動力など、アツい想いを語っていただきました。
佐々木さんのお話を伺い「故スティーブ・ジョブズの名言“Connecting the Dots”(点と点をつなげる)は、こういうことだったのか!」と実感しました。
- 起業に興味がある人
- 一生懸命仕事をしているけど、何となく日々が充実していないと感じている人
- 「自分の人生このままで良いのか……」と漠然とした不安を感じている人
は必見の内容です。
タップできる目次
2020年にWacWacを創業|VR安全教育で事故を無くす
-最初に株式会社WacWacの事業内容について教えていただけますか?
トラックの事故は社会課題
WacWacはトラックドライバ―向けの、VRの安全教育システムを提供しています。実はトラック事故は大きな社会課題なんです。
100万人あたりの死亡者数を見ると、交通事故による死亡者数はコロナウィルスによる死者数の5倍です。中でも、トラックによる死亡件数は普通自動車の16倍です。
だから、トラック事故を削減することは重要です。
安全教育の実情
-そうなのですね。このような状況であれば、各社安全教育に力を入れているのではありませんか?
たしかに、各社ドライバー向けに安全教育を実施しています。しかし、それでも思うような成果を挙げられていないのが実情です。
私は以前、物流会社に勤めていたのですが、トラックドライバーさんは本当に忙しいです。拘束時間が長いハードな仕事です。
現状の安全教育は、ドライバーさん達を集めて、国土交通省が作成したpdf資料を使って解説する方法が一般的です。
しかし、
- ドライバーさんが忙しすぎて、まとまった時間が取れない
- その結果、土日に安全教育を実施せざるを得なくなる
- pdf資料を読み上げるだけなので、実際の現場と乖離が大きく臨場感が沸かない
などの課題がありました。
VRを使って効果的な安全教育を提供
-WacWacのサービスで、安全教育のやり方がどのように変わるのでしょうか?
私たちはVRを使った動画研修を提案しています。調査結果によりVRは学習効果が非常に高いことがわかっているからです。
具体的には、
- 1分の動画はWebページ3600枚分の情報量を持つ
- VRの学習効果はEラーニングの4倍
- コンテンツへの心理的な結びつきは、講義形式の3.75倍
- 学習速度は講義形式の4倍
と言われています。
実際に体験していただくと分かりますが、VR動画は本当にリアルで、実際の事故を疑似体験できます。
-そうですね。私も「追突事故」の動画をVRで体験させていただきましたが、本当にぶつかった感覚がしました。思わず身体を引いてしまったくらいです。VRの1分の体験は、何十時間の講義やただの動画よりもインパクトがあると実感しました。
管理者様の負荷も軽減
それだけではなく、私たちのシステムは安全教育の管理も簡便にします。
これまでは、どのドライバーさんが、どの安全教育を受けたかを管理者が手作業で管理していました。監査のときに提示する書類を準備するためです。
WacWacのシステムでは、ドライバーさんがVR研修を受けると、研修受講内容の管理画面に自動的に反映されるようになっています。全ドライバーの研修受講状況を一覧で見られるようになっています。
その結果、安全教育と管理工数の94%を削減することができます。
物流会社に就職|必死に頑張るがモヤモヤは晴れず
-これまでの常識を変える画期的なサービスですね。次に、佐々木社長が起業にいたるまでのお話を聞かせていただけますか?
配属先の配車の仕事がWacWacの原体験に
大学卒業後、大手物流会社に就職し、埼玉県の戸田にある事業所の配車係に配属されました。非常に慌ただしい職場で、3秒に1回電話が鳴っているような環境でした。
このとき、月に1回ドライバーさんに向けての安全教育も務めました。
しかし、安全教育を実施しようにも、バラバラに帰ってくるので、ドライバーさんを一時間待たせてしまったこともありました。また、私が異動したときに引き継ぎをうまくできませんでした。
このときの反省から「もっと効率的、効果的な安全教育があればよいのに」と思っていました。
3年目に大阪に出向
-入社されたときの経験が、WacWacの原体験につながっていらっしゃるのですね。その後、どのようなことがあったのですか?
3年目に大阪のスカイビルに出向になり、物流コンサル関連の仕事に携わりました。「キレイなオフィスビルで働きたい!」と思っていたので目標が叶い嬉しかったですね。
そのころ、昇格試験のために仕事をしながら資格を5つ取りました。
次のステップを目指すために、本を100冊読む|孫正義さんを知る
-仕事をしながら、資格の準備を進めるのは大変ではありませんでしたか?
私は常に「成長したい!」と思っていたので、仕事以外の時間は常に勉強している感じでした。修行のような感じですが、それほど苦にはなりませんでした。
資格を取った後、次のステップとして「1年間で100冊の本を読もう」と目標を立てました。以前から、「経営をしてみたい」との漠然とした想いがあったので知見を広げるために、本を読むことにしたのです。
一冊目に出会ったのが、孫正義さんについて書かれた『志高く』でした。井上篤夫さんが書かれた本です。この本を読んで、私は衝撃を受けました。「こんなすごい人が世の中にいるのか!」と。
その後、孫正義さんに関する本を何冊か読み進めました。
最年少で主任に昇格
その後、最年少で主任昇格を目指すため勉強を続けました。毎日、仕事は忙しかったですが、寸暇(すんか)を惜しんで勉強をしていました。平日は休み時間や帰宅後の時間を使い4~5時間は勉強をし、土日は10時間くらい勉強をしていました。食事中も勉強していましたね。
そのおかげで、主任昇格の試験は74人の受験者の中で、ぶっちぎりの一番を取ることができました。300点満点のテストで全体の平均は99点でしたが、214点を取りました。
その結果、最年少で主任昇格の目標を達成することができました。
英語を身につけたいと思い、三木雄信社長が運営するトライズに
-本当にぶっちぎりだったのですね。その後はどうされたのでしょうか?
次のステップとして「英語を身につけよう」との目標を立てました。経営を学ぶにあたりオーストラリアに行きたいと思いましたし、会社員としても英語力は武器になるだろうと考えたからです。
1年で100冊の本を読む過程で、三木雄信さんの本を6~7冊読んでいました。ソフトバンクで孫正義さんの秘書室を勤められたた方で、孫さんに関する書籍を多く書かれていたからです。
そして、三木さんがトライズという英語スクールを運営しているとの話が、何となく頭に残っていました。いくつか英語スクールを調べましたが、「三木さんが経営されている英語スクールなら絶対に英語を話せるようになるだろう!」と考え、トライズで学ぶことにしました。
トライズの受講生と話をして、「自分の現状はオカシイ!」と思った
-トライズは1年で1000時間、1日3時間の英語学習を推奨しているスクールですよね。仕事をやりながら受講するのは大変ではありませんでしたか?
この当時、仕事が非常に忙しく月の残業時間は100時間を超えていました。なので、英語学習に時間を確保するのは簡単ではありませんでした。そのため、少しでも時間を見つけると英語の練習をしていました。仕事中、目に入るものを英語で言ってみる、ベトナム人の派遣の方に英語で話しかけるなどで、英語に触れる時間を確保しました。
何とか時間を捻出し、一年間で1282時間の英語学習をしました。一日あたり3.3時間です。その結果、ビジネスで商談できるレベルの英語力を身につけることができました。
-仕事が忙しい中、英語学習の時間を確保されたのですね。トライズで他の受講生と関わりなどはありましたか?
トライズで学ぶ人の話を聞くと、医者、パイロット、弁護士など高収入の方が多かったように思います。私が衝撃を受けたのは、月100時間も残業して必死で働いているのに、収入は他の人の3分の1しかなかったことです。
この事実に気づいたとき、「これはおかしいのではないか?」と疑問を持ち、「このままいったら、人生後悔する!」と感じました。
後悔しない生き方~毎日「人生初」にチャレンジ~
-英語スクールで他の受講生を見て、ご自身の生き方に疑問を持たれたのですね。
そうなんです。このときに、「自分の人生、後悔しない生き方にしよう」と強く思いました。
毎日「人生初」にチャレンジ
振り返ってみると、小学校のときは毎日が楽しかったのですよね。「なんで楽しかったのか?」と考えると、毎日が新しくワクワクしていたからです。
そう考えたとき、毎日「人生初」のことにチャレンジすればワクワクするのでは、との思いに至り、毎日実践することにしました。小さなことでも良いので、これまでの人生でやったことがないことに、毎日チャレンジをすることにしました。
最初は小さなことから始めました。たとえば、いつも通らない道を通ってみる、買い物先で店員さんにキチンとあいさつをしてみる、みたいな感じです。
他にも、「メルカリで1円を稼いでみる」ことにチャレンジし、お金を稼ぐ大変さを実感したこともあります。
そして、「人生初」に取り組んだりするうちに、「会社を経営したらワクワクするんじゃないか?」と思うようになりました。
「人生初」の一環で、トライズの三木社長に会いに行く
-次第に「経営者を目指すこと」が具体的になっていかれたのですね。その後は、どうされたのですか?
まずは経営者に話を聞きたいと思ったのですが、私の身の回りには経営者がいませんでした。
そのときに、ふと思い出したことがあります。本を100冊読む過程で読んだ三木雄信さんの本『孫正義社長に学んだ「10倍速」目標達成術』の134ページに、「私に会いたいという人がいれば、よろこんで会う」と書かれていたのですよね。
じゃあ、実際に三木さんに会いにいってみようと思いました。普通であれば躊躇(ちゅうちょ)してしまうかもしれませんが、「三木さんのアポを取る」ことを「人生初」のチャレンジとしたわけです。
トライズの担当コンサルタントの方を通じて、三木さんのアポを取りにいったところ快諾していただけました。
当時、私は大阪に勤務していたので、大阪から新幹線に乗り、秋葉原まで三木さんに会いに行きました。そうしたら、三木さんは「一緒に飲みに行こう」と誘ってくれ、ソフトバンク時代の孫さんの話、三木さんの苦労話をたくさん聞かせてくれました。初めて実際の経営者の話を聞いたこのときの経験は、本当に貴重なものでした。
ちなみに、このとき三木さんに「今まで何人が会いに来ましたか?」と質問をしてみました。すると、私が3人目だったそうです。その書籍は1万部売れているので、実際に行動する人はこのくらいの割合しかいないのだと実感しました。
トライズ卒業後、エストニアツアーに参加
-「人生初」にチャレンジしていたからこそ、一歩踏み出せたのですね。その後、起業に向けた転機はありましたか?
私が卒業した英語スクールのトライズが、エストニアツアーを企画していました。身につけた英語をビジネスの実践で試すため、IT大国のエストニアで、IT関連の展示会に参加し英語で商談するという企画です。
この企画を聞いたとき、私は「行くしかない!」と思いました。
-仕事も忙しい時期だったはずですが、なぜそう思われたのですか?
そうですね......。実際には考える前に身体が動いた感じです。行くか行かないかを悩むのではなく、「行こう!」しか選択肢がないというか。
なかなか言葉で説明するのが難しいのですが......。
たとえば、あなたの目の前に好きな女優さんがいて、飲みに誘われた場面を想像してみてください。そして、あなたには飲みに行く時間もある。こんなとき、あなたならどうしますか?
-おそらく、即答で飲みに行くと思います。
そうですよね? その感覚と似ていて、悩む余地がないという感じでした。
エストニアツアーでの出会い
-なるほど。実際に行ってみて、エストニアツアーはどんな感じだったのですか?
私たちが参加した展示会は、事前に興味がある展示をアプリで予約して、展示をしている人と商談するスタイルでした。
私は5~6人と会って英語で商談をしたのですが、その中の1人がVRを展示していました。このときに初めてVRに出会いました。実際に体感してみて、「VRはトラックドライバーの安全教育に使えるのでは?」と思うようになりました。
さらに、トライズからエストニアツアーに参加した仲間には、多くの経営者がいました。14~5人が参加し、そのうち3分の2が経営者でした。エストニアは日が長いので、日が出ているうちからビールを飲みに行き、色々な話をしました。みなさん、私をかわいがってくれましたし、貴重なお話を聞かせてくれました。このときの仲間とは今でもつながりがあります。
そして実は、このときエストニアツアーに参加した仲間の中に、WacWacの株主になっていただいた方、お客様になっていただいた方がいます。
-そんな繋がり方があるのですね。
はい。ですので、エストニアツアーに参加して本当に良かったです。
後輩の誕生日に送ったメッセージ
-「人生初」のチャレンジで道を切り開かれた感じなのですね。他にも「人生初」のエピソードがあったりしますか?
2年前のことなんですけど、誕生日に誰からもお祝いのメッセージをもらえなかったんですよね。身内も含めて。すごく寂しい思いをしました。
このときに思ったんです。私以外にも、同じように寂しい思いをしている人がいるんじゃないかって。なので、Facebookで誕生日のお祝いメッセージを出しまくることにしました。
多くの人はスルーしたり、簡単な返事がきたりするぐらいだったのですが、大学時代の後輩の1人が私のメッセージをとても喜んでくれ、「飲みに行こう」という話になりました。
その後輩の近況を聞いたところ、なんと既に起業しているとのことでした。そのときに、起業にまつわる話をいろいろと教えてもらいました。
そして、実はこの後輩はその後、WacWacの株主になってくれました。
-すごい繋がりですね。
「くやしさ」が原動力に|同級生の歌手との出会い
-お話を伺うと、佐々木さんはすごい行動力がありますよね。この原動力はどこにあるんでしょう?
そうですね。過去に悔しい思いをしたことが原動力になっているのかもしれません。
学生時代は一生懸命やるけど残念な子だった
学生時代の私は、一生懸命やるけれど結果が出ない残念な子だったと思います。
小学校の頃からサッカーをやっていました。私はサッカーがうまくなりたくて、人一倍練習に励みました。本当は友達と遊びたかったのですが、一人で黙々と練習していました。それなのに、全然うまくならない......。
勉強も同じでした。一生懸命頑張ったものの大学入試では志望校に入ることができませんでした。
学生時代、同級生がうらやましかったのですよね。スポーツができたり、学業ができたり、モテたりしていて。今でも、学生時代にコンプレックスを感じており、何とか同級生を見返したい、という気持ちがあります。
高校時代に聞いた、サッカーのホイッスルを今でも忘れられない
高校時代、私はサッカー部に所属していました。といっても、サッカーがあまり上手でなかったので公式戦に1試合も出られませんでした。
高校2年のとき、私の高校は地方大会の決勝で格上の私立高校と戦いました。この試合に勝てば全国大会進出です。このときのメンバーは士気が高く、数日前から「これはいけるかもしれない」と感じさせるものがありました。
ですが、私自身はピッチに立つことができずスタンドで見守っていました。試合に勝利する当事者になれず、第3者的な経験をして、悔しい思いをしました。
実際に、私の高校は健闘して格上の相手を倒してしまいました。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、スタジアムはものすごい興奮と感動の渦に巻き込まれました。
その一方で、私自身は「自分はピッチに立てなかった」、「その場にいることができなかった」と悔しさに打ちひしがれました。今でもホイッスルの瞬間に感じたくやしさ思い出すことがあります。
このような経験から、「自分は学生時代に輝けなかった」との思いを抱きました。だからこそ、必死で勉強を続けてきたのかもしれません。
大阪で、同級生の歌手の公演を聞きに行く
-そのような経験があったのですね。他にもくやしさを原動力に変えられたエピソードはありますか?
就職をして大阪で勤務をしていたときのことです。学生時代の同級生の女性で、歌手になった人がいます。その同級生が大阪で公演をするというので、聞きに行きました。数10人が入るホールでの公演で、さまざまな人が来ていました。
開演前に、周囲を見渡していたところ、松葉杖をついた大柄の人が危なっかしく歩いているのを見かけました。「この人、大丈夫かな?」と思いました。歩くのもおぼつかない様子だったからです。
しかし、彼女が歌い始めると、この方はなんと松葉杖を脇に置いて立ち上がり踊り始めたのです!
この姿を見たとき、私はショックを受けました。さっきまで、杖をついて歩くのも大変そうだったのに、彼女の歌が始まったとたんに立ち上がって踊り始めたからです。信じられませんでした。
彼女の歌には、そこまでの力があるということが嫌でもわかりました。
実際、私も彼女の歌を聞いて泣いてしまったのですよね。これまで人の歌を聞いて泣いたことのなかった私が。
それほどまでに彼女の歌は人の心を揺さぶりました。それは、やりたいことをやっている覚悟や責任が歌声ににじみ出ているからだと感じました。
このとき、私は悟りました。
いまの自分は、いくら頑張ってもここまで人を感動させる仕事はできないと。
たしかに、一生懸命仕事をしていて、お客様に感謝されたり喜ばれたりすることはあります。しかし、逆立ちしてもここまで人を感動させることはできない。いまの仕事のやり方では、彼女のようにはなれない。
彼女と私の圧倒的な差を見せつけられた思いでした。
当時、仕事をしながら寸暇を惜しんで勉強していましたが、根本的に何かが欠けていることに気づかされました。「自分は勉強に逃げているのではないか。本当に勉強を続けていて何になるんだ!」という気持ちが生じモヤモヤを感じました。
「自分の人生、後悔したくない!」との想いを強くしました。
「直感」にしたがい起業に踏み切る
-くやしさを感じた体験が原動力となり、行動を変えられてきたのですね。行動を変えられた結果、次第に起業が具体化されていったのでしょうか?
そうですね。ベースとしては、「人生、後悔したくない!」との想いがあり、日々ワクワクを感じるため「人生初」のチャレンジを続けていた、ということがあります。「人生初」のチャレンジを積み重ねた結果、少しずつ起業の夢に近づいていたのだと思います。
以前は起業という山を遠くから見ていただけだったのが、山に登るための道具を準備を始めた感じというか。
会社員時代、社内の起業育成大学に参加
-なるほど。具体的に、どのようなカタチで起業を準備されたのですか?
私の勤務先には、社内の起業育成大学があったので、そこに参加することにしました。社内起業のためのプランを練り上げるための教育システムです。勤務先の社長は、「若い頃から経験を積んでもらい、経営人材を育てたい」と言っていました。
入社5年目だった私は、この起業育成大学を使って、起業プランをブラッシュアップしようと考えました。
実際にこの過程で、起業プランを具体化することができました。社内にもVRを使った安全教育システムの提案をしましたが、「実施するには1~2年はかかる」と言われ、「それではチャンスを逸することになる。遅すぎる」と思いました。
VRを体感、ヒアリングし「これなら戦える」と思った
-そうだったのですね。それで起業しようと思われたのでしょうか。起業にはリスクを伴うものだと思いますが、勝算はありましたか?
トライズのエストニアツアーでVRを知ったのち、VRを体験したりヒアリングを重ねたりしました。その過程で「VRを使った安全教育なら戦えるかも」との思いが強くなりました。
あるとき会社の先輩に、どんなものがあれば安全教育に使いたいかをヒアリングをしました。その先輩から、「こういう風にしたらいいと思う。完成したら、自分も使いたい」とのアドバイスをもらいました。
このアドバイスは的確で、「これならいける!ギリギリ勝負できる!」と思うようになりました。
昇進試験受験を申し出たがタイミングが合わなかった
一方で、係長への昇進試験を受けてみようと思いました。絶対に合格できると思っていたからです。
しかし、結果としてはタイミングが合わずに昇進試験を受けることはできませんでした。「あぁ、天も起業しろと言っているんだな」と思いました。「今しかない」という感覚です。
ジェフ・ベゾスも悩んだ上で直感にしたがった
ちょうどその頃、英語学習の一環でAmazonのジェフ・ベゾスのスピーチを繰り返しきいていました。大学生に向けたスピーチで、ジェフ・ベゾスが会社員時代のときの話をしていて、Amazonのアイディアを思いついた後に、起業するまでに悩みに悩んだ逸話が語られていました。
そのスピーチの中で、ジェフ・ベゾスが次のように言うんですよね。
“After much consideration, I took the less safe path to follow my passion. And, I’m proud of that choice.”
(熟考を重ねた結果、私の情熱にしたがい安全ではない道を選ぶことに決めました。そして、今でも誇りに思っています。)
私はこの言葉が好きで、何100回も繰り返し聞きました。
この言葉を聞くたびに、世界一のジェフ・ベゾスですら悩みに悩んで最後は直感にしたがったのだと気づかされました。私も直感にしたがおうと思いました。
もちろん、何が正解かは分かりませんが、後悔はしていません。
目標設定とPDCA
-これまでのお話を伺うと、佐々木さんは思い描いた目標を着実に達成してきているように思います。目標を達成する上で心がけていることなどはありますか?
やりたいことは全部書き出し、言い続ける
そうですね。やりたいことは全部書き出していますし、言い続けてきています。大きな目標は達成していないものもありますが、小さな目標はすべて達成してきました。
たとえば、「最年少で主任に昇格する」などです。「キレイなビルで働きたい」思っていたことがありますが、大阪スカイビルに出向になり夢がかないました。
他にも、「特許を取る」という目標を立てました。孫さんや三木さんが特許を取っているので、私も取ってみたいと思ったからですね。
最近、この目標もかなえました。昨年、出願した特許が今年2月に登録になりました。
本を書きたい
-小さな目標はすべて達成してきたのですね。この先の目標には、どんなものがありますか?
本を書きたいと思っています。
実はこの目標も叶えられそうです。
先日、学生時代のクラスメートに連絡を取りました。話を聞くと、同級生は出版系の仕事をしているとのことでした。
「本を出版したいのだけど、いくらぐらいでできるものなの?」と聞いてみました。すると、同級生は「起業祝いで、タダで出版してあげるよ」と言ってくれました。
いずれ、絶対に本を出版します。
39才までに400億円の資産を持つ
-まだ、叶えていない大きな目標としては、どんなものがあるのですか?
3年くらい前から、「39才までに400億円の資産を持つ」と言い続けています。最初は、たしか飲み会の席で「39才までに40億の資産を持つ」と言ったのがはじまりです。
一晩寝て起きたら、急に恥ずかしくなってきたんですよね。「40億って、なんかショボいな......」と。そう思ったので、一桁上げて400億円を目指すことにしました。
これも、丸っきり夢なわけではありません。スタートアップを立ち上げ、創業者として株式を持ち、500億円か600億円まで育て、マザーズに上場すれば実現可能な数字です。今はまだ入り口ですが、着実に目標に向けて進んでいると思います。
それも、この目標を言い続けてきたからなんですよね。たとえば、私が38才になって会社員で、「39才までに400億円の資産を持つ」と言っていたら、ヤバい人と思われるじゃないですか。まったく地に足がついていないというか。
なので、一歩でも目標に近づくように行動してきているつもりです。
もちろん、簡単に達成できる目標ではありませんが、可能性はゼロではないと思っています。
6年間、毎日欠かさずPDCAを記録している
-本当に、すごい勢いで目標に向かって進まれているのですね。何か意識していることや工夫していることはありますか?
常にPDCAを回して、日々行動を改善しています。大学生時代から少し取り入れていましたが、会社に入ってから本格的に取り組み始めました。
私は入社式の挨拶で、「私は日々PDCAを回して、一日でも早く会社に貢献します」と宣言をしました。
この時以来6年間、PDCAを1日たりとも欠かしたことはありません。それも1日単位だけではなく、1年/1月/1週単位でもPDCAを回してノートに残しています。
-すごいですね。PDCAが大事だと思っている人は多いですが、ここまで基礎を徹底している方は、ほとんどいないと思います。
起業後のエピソード|過去のくやしさを取り返した
コロナで起業直後の3ヵ月間、売上がゼロに
-実際に起業されたのは2020年ですよね。起業後は順調だったのでしょうか?
いえ......。2020年3月に起業をしたのですが、その直後にコロナが本格的になりました。そのせいで事前に進めていたお客様との商談がすべて白紙になりました。結構、大口のお客様もいたのですが......。
その結果、起業してから3ヵ月間、売上ゼロの状態が続きました。さすがに、「このままではマズい」と思いましたね。
2020年7月に初めて売れた
起業したのは3月ですが、実際にシステムが完成したのは6月です。その後、20社以上に営業をして回りました。買ってくれそうな人がいるところには、どこでも行きましたし、電話もかけまくりました。必死で営業をし続けたものの、なかなか売れません。
苦しい日々が続いた7月のある日、電話で営業をしたところ、先方から一言「買うよ」と言ってもらえました。これまでまったく売れなかったので、この一言を聞いてもすぐには信じられませんでした。しばらく経ってようやく、「初めてサービスが売れたのだ」と実感が沸いてきました。
電話を切った後、涙が出てくるのを止められませんでした。
このとき、高校時代の地方大会の決勝で、試合終了のホイッスルを聞いたときと同じ感覚を味わいました。まったくのゼロからイチを作ったことで、あのときのくやしさや無念さを取り返した気がしました。
初のお客様と飲みに行った
-お話を伺っていて、そのときの情景が目に浮かぶようです。
その後、初のお客様のところに納品に東北まで行きました。
このお客様は、起業前に相談してアイディアをくれた先輩でした。納品の後で、先輩と一緒に飲みに行きました。起業してからの苦労話や、まだまだ先が見えない状況などを話しました。
すると、先輩はこう聞いてきました。「私は、佐々木さんの最初のお客様になれたのかな?」と。
以前、アイディアをくれたときに、この先輩は「私が最初のお客様になりたい」と言っていたからです。
本当は買いたかったのだけど、時間がなくて遅くなってしまったのを気にかけてくださっていたようです。
私が「その通りです」と答えると、先輩はその場で泣き崩れてしまいました。「本当によかった。佐々木さんの最初のお客様になれて、本当に良かった」。
そこまで、私のことを気にかけてくださっていたのだと驚きました。
泣き崩れる先輩の姿を見て、私は同級生の歌手とようやく同じスタートラインに立てたのだと感じました。仕事を通じて初めて人を感動させることができたのだと実感しました。
自分一人ではない
-それは嬉しいですね。お話を伺い、こちらまで嬉しい気持ちになりました。その後は順調に進まれたのでしょうか?
起業後は辛いことがいっぱいあった
正直な話、起業した後は辛いことばかりでした。リソースがないので、営業はすべて私が行っています。何十社と営業して回りましたし、お客様が集まりそうなところには出向いたりしています。
会社を辞めて起業をすると、何の肩書もなくなります。私のような若造が営業に行っても相手にされないこともあります。
営業に失敗して、40℃の灼熱の中、VRを片手にトボトボ駅まで歩いていたとき、「なんで、こんなとをしているのだろう......」と思ったこともありました。
「ワクワクしたい!」と思って起業をしましたが、実際にはそれだけではなく辛いことがたくさんあるのが身にしみました。飲食店など既存のビジネスであれば、利益計画などは比較的立てやすいかもしれません。しかし、スタートアップは先行きがまったく見えません。
応援してくれる多くの人の存在があるからこそ頑張れる
-起業をされた後もバラ色というわけではなかったのですね。辛いとき、どのように乗り越えられたのですか?
私のビジネスは多くの人に支えられています。社員はもちろんのこと、お客様や株主の皆様、ボランティアで助けて下さっている方々などです。
多くの成功している経営者が株主として出資してくださっています。単に応援してくださるだけでなく、身銭を切って出資をしてくださっています。その想いを考えると、私がくじけてはいけないと思います。彼らの存在があるからこそ、私も頑張らなくてはいけません。
たとえ、営業に失敗しても、そんなことで諦めてはいけません。応援してくださる皆さまの期待に応えたいと思いますし、結果を出す責任があると思っています。
ボランティアで助けてくれる人もいる
他にもボランティアで助けてくださる方々もいらっしゃいます。
WacWacの安全教育のコンテンツは細部まで徹底的にこだわっています。ドライバーさんが実際に遭遇しうる場面を選び抜いています。
これだけクオリティが高いコンテンツを準備できているのは、企画に内閣総理大臣賞受賞のドライバーさんがボランティアで協力してくださっているからです。
-そうなのですね。なぜ、この方はボランティアで参加されているのですか?
もともとの出会いは、昨年コンテンツ用の動画撮影をするときでした。撮影に向けて準備に準備を重ね、ドライバーや撮影場所、スタントマンを押さえました。しかし、撮影の前日になり、お願いしていたドライバーさんがドタキャンをしたのです。
このときは、「すべてが終わった......」と思いました。なぜなら、資金面から撮影は失敗が許されないからです。起業もここでとん挫をしてしまうと絶望を感じました。
望みをつなぐために、いろいろな方に電話をしてドライバーさんの都合をつけられないかお願いをしました。その中で、エターナルボンズ社という物流会社の取締役の方に電話でお願いをしたら、ひとこと「いいよ!」という返事が返ってきました。
それだけでなく、「ボランティアで、ウチの社のエースを出すよ」とも。このときに出会ったのが、内閣総理大臣賞を受賞されたドライバーさんでした。
この時の撮影だけでなく、その後も協力をいただいていますし、本年度の撮影にもご協力をいただき、昨年以上の素晴らしいVR動画の撮影に成功しました。
後で取締役の方にお話を伺ったところ、「前から応援していて、力になりたいと思っていた」とのありがたい言葉をいただきました。
もう本当に、感謝してもしきれません。
このように、多くの優秀な人のおかげで今があります。協力してくださっている方々のためにも、ワクワクするものを作りたいですし、もっと社会に貢献していきたいと思っています。
起業を志す人へのメッセージ
-行動されるうちに、本当に多くの方と繋がっていかれたのですね。もし、佐々木さんが起業を志す方からアドバイスを求められたら、どのような話をされますか?
私が大事にしている以下の3つの話を伝えたいです。
- 直感にしたがう
- 人生に後悔しない生き方をする
- 闘う
-「直感にしたがう」と「人生に後悔しない生き方をする」は、先にお話をしていただきましたね。最後の「闘う」はどのような意味なのでしょうか?
ビジネスを通して世界と闘いたい
私は、日本人が欧米など海外の言いなりになっている現状を、くやしく思います。海外の人から褒められて喜ぶ日本人もいますが、これは外国人コンプレックスだと感じます。
外国人より下であるのを当然というメンタリティだからこそ、褒められると嬉しいと感じるわけです。これでは、闘う前に負けていると言わざるをえません。
私は、ビジネスを通して世界と闘いたいと考えています。グローバルに闘える実力を身につけ、世界を相手に勝負をしたい。
そのために、自分と闘っているとも言えます。
一方で、日本社会の中では、特に若い人の場合、ビジネスの商談の場で相手からナメられることがあります。
お客様と商談中にも、私が若いというだけで相手からナメられて馬鹿にしたような言い方をされることもあります。このような場面に遭遇すると、相手には寛容さや本質を見抜く力がないと感じてしまいます
なぜなら、私たちが提供している製品はお客様の役に立てると信じていますし、他の誰もこんなクオリティの高いものを作れないはずだからです。
私は、日本の力強さを取り戻そうとの想いを、製品を通じて真剣に伝えようとしていますが、中には伝わらない人たちもいて、歯がゆい思いをしています。
もっと日本をよくしたい
先ほどお話したように、海外の言いなりになっている日本の現状をもどかしく思っています。だから、日本をもっとよくしたいし、強くしたい。
歴史を振り返ると、戦後の日本を作ってきたのは、松下幸之助さんや本田宗一郎さんなど偉大な経営者たちだと思っています。彼らは日本のため、社会のために闘っていました。本当にカッコイイ生き方だと思います。
先人たちが作り上げてきた日本を、もっとよくするために私も闘っていきたいです。
最後に|人生、後悔しない生き方
くり返しになりますが、多くの人に後悔しない人生を送ってほしいと思っています。
私の場合は、同級生の歌手の公演を聞いて「人生、後悔したくない!」と強く思いました。そして、毎日「人生初」にチャレンジし続けた結果、漠然と思い描いていた起業が具体化されました。その過程で、多くの点と点がつながり、今の私があります。
私自身の経験から、「人生初」のパワーは強烈だと感じています。人の人生を変える力がある。「後悔しない人生を送りたい」と少しでも思う人は、実践してみてほしいですね。
まとめ|“Connecting the Dots"
佐々木さんのお話を伺い、多くの点と点がつながり、起業に至ったことがよくわかりました。故スティーブ・ジョブズの名言“Connecting the Dots"を地で行っている感じです。
核となっているのは、「後悔しない生き方をしよう!」と決めて実践した、毎日の「人生初」チャレンジ。そして、常に目標達成をする行動力とPDCAです。
「自分の人生、このままでいいのかな......」と漠然とした不安を持っている方は、一つでも日々の行動に取り入れてみることをオススメします。